第49回
波の高低を見るな、潮の流れに乗れ
海に潮の流れがあるように、人や物の動きにも流れがあるし、
お金の流れにも動きがある。
人や物の動きが変わると、お金の動きも変わり、
それが会社の業績を変え、株価の動きも変える。
だから、経済の動きを一定の距離を保って、
遅くから見ることができさえすれば、
ここは近づいてよいとき、ここは出漁を控えるとき、
ということがいやでもわかってくるのである。
ところが、兜町にいて、毎日毎日、
相場とにらめっこをしていると、
この簡単な原理がわからなくなってしまう。
というのも刻々と動く株価の動きは、海にたとえるならば、
潮の流れではなくて、波の高低だからである。
株式市場に近づけば近づくほど、
相場の高低に気をとられて株の本質を見失ってしまうのである。
証券会社のセールスマンは、私に言わせると、
浜辺で海を見ている人のようなものである。
黒板を見ていると、刻々と株価が動く。
波が高くなったり、低くなったりするようなものである。
海には波の静かな日もあれば、荒れる日もある。
時には台風の襲来することもあるし、大津波になれば、
陸にいる人までさらわれてしまうこともある。
しかし、波を見て一喜一憂しても、
海に乗り出して行かなければ、魚はとれない。
魚は潮の流れに乗って動いて行く。
魚のとれるとれないの原理は、
波の高さや低さではなくて、
魚のいる潮の流れにこちらが乗れるかどうかである。
したがって、潮が見えなければ、
収穫にありつくことはできないのである。
初めて株をやる人は、
証券会社のセールスマンは
毎日毎日、株のことを扱っているのだから、
株のことは熟知しているものとつい錯覚を起こしてしまう。
もちろん証券会社で働いている人の中にも、
株価の見通しのきく人が全くいないというわけではない。
しかし、証券会社のベテランでも、
株価についてはしょっちゅう見当違いの見通しをする。
というのも、1つには相場の近くに居過ぎて、
相場の高低を経済の流れと錯覚してしまいがちだからである。
もうーつには、それぞれの会社に方針があって、
「次はこの株で行こう」と会議で決まると、
相場とかかわりなく特定の株を
お客にすすめることになってしまうからである。
もっとも最近は、証券会社が
営業政策で決めた推奨株の方が確実に上がるという
新しい評価もある。
昔は証券会社がすすめると、せせら笑って売り向かう人もあった。
証券会社が推奨するために集めた株がお客にはめられてしまうと、
あとは値下がりすることが多かったからである。
ところが、最近は証券会社の実力がついてきた。
募集して設定した投資信託の資金もうんと潤沢になっている。
その上、相場の息が長くて
新入りが次から次へと駆け込んでくるので、
一つの銘柄に買いが入ると、
予想以上に上げ相場が長く続くのである。
しかし、株価の将来を決めるのは、
波の高低ではなくて、潮の流れである。
したがって株を買う人は、
証券会社のセールスマンの甘言に乗って、
波の高い低いに気をとられてはいけない。
これからの時代はどういう潮の流れになるかをよく見定めて、
どんなに儲かりますよと言われても、
斜陽化する業種に近づかないことが必要であろう。
|