第58回
採算を無視した投資はどこかでつまずく その2
ところが、実際にマンションを人に貸して
二年もたつと家賃が九万円に上がったので、
毎月の返済をしても逆に月々二万円ずつ浮くようになった。
次の契約更新時には十一万円になり、
バブルの頃には何と十六万円まで値上がりをした。
マンションの値段も年々値上がりをして、
バブルの絶頂期には四千万円まで値上がりをした。
その頃には八百万円の借金も完済できたが、
もし家賃収入を全部、返済にあてていたら、
恐らく十年で無借金になっていたことだろう。
その上、買ったマンションが四倍にも値上がりしたのだから、
小は小なりに一財産できたことになる。
元はといえば、たったの二百万円から出発したから、
サラリーマンとか、奥さん方にとって、
これほど見事な財テクは考えられない。
こうした成功にすっかり有頂天になって、
土曜日曜になると、奥さんを連れてマンション探しに歩きまわり、
採算に合いそうなマンションを
片っぱしから買いあさった
元気のよいサラリーマンを私は知っている。
「センセイのおっしゃる通りにやって、
とうとう百室を超えてしまいました」と、
その人は自慢気に喋っていたが、
私はその勇気と根気には敬服したものの、
もし一歩間違えて借金の返済ができなくなったら
どうするつもりだろうかと心配になった。
もちろん、経済成長の続いている間は、
そういう心配は考えられなかった。
少なくともその人がそういう行動をとっていた間は、
マンションが値下がりしそうなきざしは見えなかった。
しかし、そういうときでも、
私はローンの返済が必ずできることを
鉄則とするよう自分にも言いきかせたし、
周囲の人にもアドバイスをした。
ローンでマンションを買って意外にうまくいくことがわかると、
人間はどうしても気が大きくなる。
しまいにはどうせ値上がりをするのだから、
頭金にするお金も銀行から借りてくる。
もうローンを払い終わったマンションを担保にすれば、
銀行が融資してくれるから、
家賃収入で返済できるかどうかを
つい無視してかかってしまうのである。
とくに、バブルの絶頂期にはマンションの利回りが
三パーセント程度まで下がってしまったから、
収入で銀行利息を賄うことは全く不可能になってしまった。
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