第87回
これが天職と思えば全精力を傾けよ
「中金持ち」への早道の条件、
その第三は、これが自分の天職だと思ったら、
わき目もふらずに全力を傾けることである。
少々、野心のある人ならサラリーマンをやっているかたわら、
副業とか財テクをやって収入をふやそうとする。
それはそれでいいのだが、
アルバイトや財テクで財をなすことは難しい。
もちろん副業だったものを本業に切り替えることはできる。
小説家の中には新聞記者や雑誌編集者出身の人が最も多いが、
医者だった人もあれば、ホテルマンだった人もある。
なかにはさまざまの職場を転々として渡った末に、
作品を書いて成功した人もある。
原稿が売れなかった間、
食いつなぐために他の職業についていたわけだが、
その間に、アルバイトだった原稿書きを
本職に切り替えたのだといっても間違いではない。
また本職に従事しているかたわら、
株をやったり不動産投資をやったりする人がある。
不動産投資は相当の資金がなければできないから、
誰でもできるというわけにはいかないが、
株ならお手軽にできる。
だから株に手を出す人は多い。
たまたま時期と運に恵まれて、
買った株が倍にも三倍にも上がったりすることが起こる。
すると、与しやすしとばかりに、
信用で株の売買をしたり、
自分のマンションまで担保に入れて
株式投資にのめり込んだりする人がよくある。
私のところに出入りする人の中にも、
自分の本職を捨てて
とうとう株式売買のプロになってしまった人もある。
そうしたやり方に私は賛成できない。
私の体験によれば、
株で定期的な収入を得ることは容易なことではない。
戦前のように配当の利回りが六パーセント以上あれば、
あるいは配当で生計を立てることができるかも知れないが、
僅か〇・五パーセントとかそれ以下ということになると、
よほど巨額の投資でもしない限り、
配当金は物の数に入らない。
巨額の投資をしている人ほど
配当金など眼中にないといってよいだろう。
とすると、株をやるということは
相場をとるということにほかならないから、
相場の動きに大きく左右されて必ずしもうまくいくとは限らない。
仮りにうまくいったとしても、
大相場は三年か、四年に一度だけだから、
不景気になって相場がもたもたすると、
開店休業のようなことが起こる。
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