第104回
どんな時代でもシロウトが参入できるスキマがある
よく「昔はいっぱいビジネスのチャンスがあったけれども、
いまは本当にむずかしくなりましたね」
というようなことを言う人がいる。
こういう人はきっと昔も同じようなセリフを吐いたであろう。
昔の方がチャンスがいっぱいあったように見えるのは、
それらのことにすでに答えが出てしまっているからで、
先の見えないことでは
昔の時点でもいまでもじつは同じなのである。
五十年前、終戦直後に日本の自動車産業が
いずれ世界一になるだろうと予測できた人は一人もいなかった。
日本には戦前からトヨタやダットサンがあったが、
本当に小さな会社であった。
昭和三十年代に私が若者たちの自動車熱を見て、
自動車株を買おうとしたときでも、
私が相談をした技術コンサルタントの人に猛反対された。
その人は、
(1)日本の道路事情は自動車を走らせるのに向いていない。
(2)日本の自動車生産技術はあまりにも遅れている。
(3)少量生産では一車種で年に何十万台も
マスプロをしているアメリカと競争できない、と言って、
日本の自動車の将来を悲観的に見ていたのである。
その人は、現状を見てそう判断した。
それに対して、若者の自動車熱が
日本に自動車産業をもたらすだろう、
また自動車が増えれば、
自動車が日本国中に道をつけるだろうと言って
トヨタの株を買ったことがある。
物の見方はどこを見るかによって違う結論が出てくるのである。
社会はつねに動いている。
だからつねにチャンスはある。
できあがっている秩序だけを見ていると、
新しく割り込むチャンスはほとんどない。
しかしーつのことが飽和状態に達すると、
新しいスキマが必ず出てくる。
そのスキマを埋めると、また次の新しいスキマができる。
そのスキマを埋めていくのが産業界の役割なのである。
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