第118回
五十歳からの脱サラにも新鮮感はある
私は三十年も前から、日本の社会構造と
年齢構成と給与制度のあり方を見て、
その頃、新入社員として入社した
若い人たちが定年に近づく頃には、
企業が退職金を払うのにも難渋する時代がくるだろう
と予測したことがあった。
物ができすぎて売れなくなることまでは
勘定に入れていなかったし、
まして海外から安い工業製品が攻め込んでくることは
想定しなかったが、
それでも生活費がかなり高くなって
所定の退職金をもらった程度では
老後を暮らすのには不充分だろうと考えた。
実際に三十年たってみると、
いまはまだ六十五歳以上の老人が
全体の一四パーセントしか占めていないから、
何とか年金の支給もできているが、
産業界の体制が崩れかかっているので、
産業界に資金を投じている保険会社も
年金も年に五・五パーセントの利益を
あげることすら困難になっている。
それというのも、
株を上場している日本の代表的な大企業が
長期にわたる不況に悩まされ、
株価が低迷状態におちいっているからである。
もともと利回りがーパーセント以下まで
買い進まれた日本の株が値上がりしなくなれば、
投資対象としての魅力が失われてしまう。
不動産も似たような動きになると、
機関投資家は恰好の投資対象を失ってしまう。
五・五パーセントの利益も確保できないことになると、
年金も保険会社も計画した配当や年金の支払いができなくなり、
制度そのものが危機に曝されてしまう。
いや、そこに至る以前に、
各企業が生き残るために
リストラに全力をあげなければならなくなるので、
人件費をカットするための人減らしが先行する。
さしあたり白羽の矢を立てられるのが、
これから働き盛りにさしかかる五十歳前後の中堅幹部である。
いままでよそ見もしないで会社一筋に生きてきた連中が、
会社から排除されるめぐり合わせになってしまったのである。
「いくら何でもそれはあんまりだ」
と会社の非を鳴らしてみたところで、
会社そのものが生き残りをかけた窮余の策が人員整理だから、
所定の退職金以外に割増金をつけてくれるとすれば、
いよいよ会社が倒産して商売どころか、
給与も遅配のま暴ぐおっぽり出されるよりは
うんとましだと思わなければならない。
事実、会社からそういう条件を提示されて、
この際、思い切って第二の人生を歩もうかと、
それに応じて会社を辞めるサラリーマンは
決して少なくはないのである。
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