第119回
五十歳からの脱サラにも新鮮感はある その2
そうした中途退職者に残された次の選択は、
他の会社もしくは他の職業への転職もしくは転業をするか、
あるいは、この際、宮仕えから足を洗って、
独立自営をするかのどちらかであろう。
会社が退職者を募集する場合、
会社にとって不利なことのーつは、会社を辞めても、
ほかにいくらでも自活の道がある連中が率先して会社を辞め、
どこにも行きどころのない者だけが
最後まで会社にしがみつく可能性が強いということである。
したがって、整理をするたびに有能な人材を失う心配が出てくる。
もっとも尻に火がついたところで行なうのが人員の整理だから、
それも覚悟のうえということであろう。
辞める側にしてみれば、転職、転業、
もしくは独立自営のどちらを選ぶにしても、
そうすることに覚悟と自信が必要である。
右肩上がりの成長期には、
そういうことは一切視界に入ってこなかったが、
景気の低迷が長期化すると、どんなサラリーマンも、
自分がそういう立場に追い詰められたときのことを
想定しないわけにはいかない。
「いつでも辞めてーからやりなおす」つもりになっておれば、
ふだんから「自分にできることは何か」
「どんなことをやれば、仕事として成り立つか」
「それを実行するために、どれだけの資金が必要か」
「どんな人の協力を必要とし、
また誰と誰を部下もしくはパートナーに持つことができるか」、
絶えず構想を練り、また準備をすることになる。
治に居て乱を思うくらいの対策は、
お家安泰のサラリーマンにも必要なことであろう。
むろん、独立自営に向かない人もいる。
そういう人は、逆に転職先を探すことになるが、
出世コースからはずれ、再就職することになれば
収入は半減するのが普通である。
そこから再出発して、新しい職場で
その実力を認められるようになれば、
再び重要なポストに就くことも、
また以前以上の収入にありつくことも
決して不可能なことではない。
むしろ第二の人生の方が実力以上の人生だから、
そこで成功すれば、自分の人生に自信をつけることができる。
そういう仕切り直しを人生の挫折と考える代わりに、
新しいチャンスへの挑戦と考えることができれば、
人生の後半を上手に生きたことになる。
会社を辞めるのをしおに、
独立自営に転ずるのは、
転職をするのに比べれば勇気のいることである。
それを実行するには、体力も気力も
充実した年齢にこしたことはないから、
四十歳前が適当だと私は考えているが、
誰もがその年齢で独立できるとは限らない。
客観的に見て五十歳では少し遅すぎるけれども、
私の知人の中にも五十代になって宮仕えを辞め、
独立して事業に成功した人がいくらもいる。
四十歳に比べると、体力、気力で衰えがあることは
隠せないけれども、その分経験も積み、
人間関係の層も厚く、
かつ、社会的信用において若年層にまさるという点もある。
また自分の実力や才能の限界を知っているので、
あまり無茶をやらずにすみ、
大きな失敗をしないですむというメリットもある。
そういう新しい挑戦をする以上、
いやいややるのと、積極的になるのとでは、
カの入り方も自ずから違うし、成功の確率も確実に違ってくる。
私の場合は若いときからそういう挑戦を繰り返してきたので、
五十歳のときも、六十歳のときも、
それが苦になることはなかった。
いつも新しい仕事を一から始めたので、
新しい失敗に見舞われたし、
そのたびに新しい勉強をすることになった。
失敗も成功も新しく経験するものには
それなりの新鮮さがある。
それを怖がらずに生きることが人生だと私は思っている。
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