第134回
ロールスロイスに乗るのは、節減の余地を残しておくため
お金の使い方は、それくらいむずかしい。
金持ちになる人ほど使えないものなのである。
金持ちほど計算がしっかりできていて、
つまらないお金は使いたくないという気持ちがあるからだ。
そのへんのところを、意識して乗りこえないと、
もうひとまわり大きくはなれないと思う。
たとえば、私はロールスロイスに二十何年も乗っているが、
賛沢すぎるとか無駄だとか言う人がいる。
ロールスロイスに乗ってパテック・フィリップか、
ピアジェの高級時計でもはめて、
銀座のバーに行けば、
お金をたくさんふんだくられるぐらいがオチである。
まあ得なことといえば、
デパートやホテルに行ったときに
サッと扉を開けてくれることと、
「どうぞそこに止めてください」と、
離れた場所へもっていかれないことぐらいだろう。
目に見えるところにロールスロイスが停車しているのを
向こうも喜ぶのだから。
そういうことは百も承知の上で、
私がロールスロイスに乗っているのは、
リストラのときの経費削減をする余裕を残しておくためである。
もし、そういう目に遭わずに、
一生無事に終われば、乗っただけ得をしたということになる。
不幸にして倒産まで追い込まれそうになったら、
ロールスをやめただけで、かなりの節減ができる。
しかし、ロールスはお金さえあれば乗れるというものではない。
それに相応しい人柄にならなければ
カッコがつかないというむずかしさもある。
私のところへ出入りする若者の一人が
事業でえらい金儲けをして、
創業二十周年記念パーティーを東京プリンスホテルで催し、
千人のお客を招待したときのことである。
彼は真新しいベントレー
(価格はロールスロイスと五十万円しか違わない)を
自分で運転してきて、玄関のところに止めた。
するとガードマンが飛んできて
「運転手さん、ここは駄目。あっちあっち」と
言われたそうである。
だから私は彼に言った。
「ベントレーなんかに乗るときは、
オーナーとわかるようにちゃんとした恰好をしなきゃ駄目だよ」
無駄という意味では、
デパートの入ロで若い女店員がお辞儀をしたり、
エスカレーターの前でお辞儀をしたりしていたことがある。
何て無駄なことをと思ったことがあるが、
自分がロールスに乗るようになってから、
あれはデパートが儲からなくなったらやめるため
だと考えなおした。
はたして、この頃はエレベーター・ガールも
一人もいなくなってしまった。
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