“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第17回
こだわりの鱸

ある宴会の日、鳴門の鱸漁師の村公一君に鱸を送ってもらった。
台風が近づいていて、鳴門の海は結構荒れているという。
それでも我々のために二匹の鱸を獲ってくれた。
彼は同じ漁場で続けて漁をすることはしない。
一週間以上も漁場をいじらないようにして、
そこに住み着いた鱸が落ち着くようにする。
そして、夜間に網で取るが、その張り方は水平に近く、
鱸が自然に乗り上げて
捕まったと感じられないように工夫をしている。

獲った鱸は波止場に設置してある水槽に
一夜ほど入れて落ち着かせる。
決して獲れ立てをすぐに〆ることはしない。
獲ったばかりのときだと鱸はパニックに陥っていて、
身体には乳酸が溜まっている。
そのまま〆ると死後硬直が早くなってしまうからだ。
水槽は真っ暗で
波の音以外はなるべく聞こえないような構造になっていて、
そこで一夜を明かした鱸はすっかりと安心して、寝たようになる。
その安心しきったところを〆て、血を完全に抜き、
さらに脊髄をエアガンで飛ばす。
この配慮によって、彼の出荷する鱸は劣化速度が遅く、
熟成して旨みが増す。

村君から届いた鱸を捌いて、
身はそのまま刺身に、胃袋と皮は湯引きをする。
肝はそのまま生で提供。
刺身は臭みが全く感じず、
上品で繊細な脂が味わいの輪郭を引き出している。
濃厚でいて綺麗な味、そんな鱸だ。
胃袋がまた絶品。
上品な味わいで、ぷりっとした食感がたまらない。
肝も全く臭みがなく、独特の味わいが酒を進める。
鱸はアシの速い魚で、内臓は普通は食べられないが、
村君のだけは特別に食べられる。

アラは塩だけで潮汁にする。
これも、上品でこくのある旨みに一同感激していた。
村君の鱸は東京でも厳選した何軒かの料理屋に送られてくる。
私も何軒かを仲介した。
神田「新八」、人形町「きく家」などである。


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