伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第3回
幸せな鶏が産む玉子

いくらかドイツ語の授業に慣れてきた頃、
何か質問は?日常暮らしのことでも何でもよい、と言われたので
「なぜ、ドイツの市場には、たくさんの種類の鶏卵があって、
しかも、価格が2倍も3倍も違うのか?」と尋ねたことがあります。

一瞬、シーンとなり、
愚問を発してしまったな…と後悔しかけたとき、
この先生はピシッと姿勢を正しておっしゃるのです。
「そこに、ドイツ人が持つロマンティシズムの根源があるのです。」
ますます混乱していると、こう続けて説明されるのです。

幸せな鶏は、幸せな玉子を産む。
幸せな玉子は、それを食す人間も幸せにする。
そう信じるところに、ドイツ人のドイツ人たる独特の自然観、
ロマンティシズムの根源がある。

幸せな鶏とは、自由に駆け巡り、
彼らは好きなものをついばみ、眠る…。
幸せな鶏が産んだ玉子には、消費者ニーズもあり、
コストが掛かっていて市場価格としてやや高めの値段になる、
のだそう。

鶏の種類が違う、餌がビオ(有機食品)である、自然卵であるなど、
そういう言葉での説明が返ってくるかと予想していたところ、
「ロマンティシズム」という言葉の不意打ちを食らいました。

けれども、この“幸せな鶏の玉子論”は、
どんな鶏が本当に幸せか?など多少議論の余地が残るにしろ
ビオ(有機食品)という言葉一つでは片付かない、
何かもっと幅のある考え方が基盤になっていることを
示唆しています。

牧場で遊びまわるガチョウの群れ、
たわわに実っても全て収穫せず、実が落ちるままのリンゴの樹。
森の中の半分折れたままの大きな樹木。
ドイツには日本では理解しがたいほど
もったいない光景、
自然のままでありすぎる風景が少なくありません。
それを見るたびに、
私はこの“幸せな鶏の玉子”の話を思い出します。


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2006年11月10日(金)

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