伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第13回
郷に入っては

「郷に入っては郷に従え」とは上手い表現です。
けれども、実際、異郷に飛び込んでみると
これがそう簡単ではありません。
その郷で、一体、何からどう従えばよいのか
さっぱり分らない時期があります。

「どんなときにも、ゆっくり冷静に。
感情を露わにしすぎず、落ち着いた行動を。」
これがどうやら、この国で“大人”として
要求されている“常識”の一つのようです。

何も今更、大人に教えるほどのものではない、
という種類の、この国の常識を理解するまでに、
私はずいぶんな遠回りをしたものです。

私が住む小さなアパートから最寄のローカル駅まで、
真っ直ぐ、真っ平らな歩道が約600メートルあります。
歩けば10分、少し走れば6分の距離。
つい習慣で、ドアを出ると毎日、小走りで通っていました。
日本ではごく普通の「急ぎ方」です。

すると、キュッと急ブレーキを掛けて車が停車。
ばっと運転席の窓が開いて、驚いて訊ねられるのです。
「ちょっと!一体何があったの?」
見ず知らずの人から、突然、声を掛けられて驚くのは
こちらの方で「そこの駅まで」と答えると、
「そこの駅まで?警察じゃないんだね?」
と念を押します。不思議に思いながら、
その後、全く同じことが合計3回起きたとき、
さすがに私も理解しました。

自分が悪いことをして逃げるか、もしくは、
警察を呼ぶような特別緊急事態でもなければ、
大人が道を走るのは「考えられない」。
そして、特別緊急事態には、できるだけ手助けする。

もちろん、ジョギングの服装で運動を楽しんだり、
到着した電車に飛び乗ったりするときには
走っていても、ヘンな人だとは思われないようです。


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2006年12月4日(月)

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