伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第14回
バスが遅れても

大抵の交通機関は、時間ぴったり、もしくは、
予定より早く待機するのが普通です。
事情にもよりますが、まずは時間通りに動きます。

ところが、この日は珍しく始発のバスが来ません。
やっとバスが到着したのは、定刻を30分ばかり過ぎたとき。
やれやれと乗り込む客は、運転手にこう尋ねます。
「どうしたの?事故でもあったのかい?」

運転手は、こう答えるのです。
「いや。私はちゃんと所定の場所で、
バスを待機していたのです。
ところが、このバスが前の路線から遅れて到着したので、
私は定刻にこのバスを発車させられなかったのです。」
「それはお気の毒に…」と乗客、バスは発車します。

次の停留所へ来ると、やはり乗客が待ちくたびれて
「まぁ!渋滞でもあったの?」と尋ね、
運転手も「いや。私はちゃんと…(以下、先に同じ)。」と
1から10まで省略せずに説明します。

停留所ごとに乗客を乗せるたびに、
この問答の繰り返しで、
1停留所で1分以上の遅れがさらに加わります。
すでに乗車した周りの乗客は黙って
その問答を聞いています。

運転手は「お早くお乗りください」とも言わず、
乗客も融通が効かないなと見えたその様子に、
私は、一寸、苦笑しそうになったのですが、
これは、笑えないことに気が付きました。

ドイツの乗客が、気が利かないわけではありません。
けれども、バスを急がせるよりも、
互いに正当な疑問と理由を「述べる」時間の方が
ずっと大事な場合もあり、なのです。


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2006年12月6日(水)

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