伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第26回
ドイツ皇帝の新年昼餐会

ウィンザースープ・白身魚と高級キノコと牡蠣・
ビーフと温野菜・チキンのマヨネーズソース掛け・
キジ肉・サラダ・グリーンピースのバター掛け。
ビスケットのパイナップル添え・冷菓子・フルーツ。

これは、東西に分れる前の1つのドイツであった頃、
19世紀末の2代目ドイツ皇帝、
ウィルヘルム2世(在位1888〜1918年)が
即位翌年の新年1889年1月20日、ベルリンで催した
昼餐会(ドイツでは昼食が正餐)の献立です。

私には、今や、世界中の旬の食材を駆使し、
鮮度と希少さをより一層競うかのような
現代日本の食卓の方がずっと贅沢で、
大変高価に見えるのです。
けれども、このメニューもまた、当時としては、
近代ドイツの一世一代を掛けたグルメメニューなのです。

昨年10月フランクフルトの郊外、
バドホンブルグ、ゴーティシェスハウスで開催された、
「ウィンザースープとタウナス鱒
ウィルヘルム2世の食卓文化」という展示会での
古いメニューカルテからの抜粋です。
「最新設備の厨房と優秀な料理人によって作られ、
ずらりと居並ぶ従者の間を縫って、
盛装の紳士淑女のお歴々に運ばれた」のは、
このようなお料理でした。

極寒期のベルリンで催された皇帝の正餐会で
使われた食材のうち、ビーフとキジとチキンを除けば
恐らく、ほとんどがドイツ国外からの輸入希少品でしょう。

海はあれど、食材としての海産物には関心が薄いドイツで
牡蠣が登場しているだけでも大層な驚きです。
ウィンザースープとは、公開展示されたレシピを読むと
子牛肉をメインにしてとったブイヨンに
パスタを浮かべたもの、のよう。
野菜や豆を煮込んで作る、普段着のスープからは
想像を絶するほど上品で、非日常的な一品。

南国のフルーツ、パイナップルは、
ウィルヘルム2世の大好物で、日ごろのデザートにも
時折、所望されたとか。他フルーツとは別格扱いです。

ウィルヘルム2世は、食器にもこだわりがありました。
柳の編籠の模様を押した白い磁器に、
澄んだオレンジ色だけでドイツの野花を小さく描いた、
少しシノワズリーな雰囲気が漂う食器のシリーズ。
これを大層お好みだった、ということです。


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2007年1月3日(水)

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