第36回
路上もやっぱり国際社会
大変有難いことに、私を担当してくれた教官は、
駐車練習や時間交代など
僅かなチャンスを見つけては
他の受講生の様子を積極的に見せてくれました。
「ニッポン人って本当にいいよね。
ニッポン人は皆、おカネ持ちだよ。
ドイツに来れば日本の運転免許はすぐに書き換えられるし。
君たちは本当に良いこと尽くめだ。」
そう口では言いながら、ドイツ世間にまるで無知な
この日本人に、世間の断片を見せてくれようという具合に。
ビアンカと名乗る20歳そこそこの若い女性は、ロシア人。
「彼女はここに来て初めて、
ハンドルを握ったけれど、もう、そろそろ大丈夫だ。」
学生として来独しておりドイツでの就職前に、
運転免許を取得しておきたいとのこと。
ターニャは、30歳代のユーゴスラビア人。
彼女は、教官とドイツ語でもフランス語でもない
耳慣れない欧州言語で何やらドイツの道路標識について
質問をしていた様子ですが、
一体何語で話しているのか、私にはさっぱり分りません。
私が英語での受講をリクエストしているのを知り、
この教官は英語も話せるのか、と驚いていました。
教官ご自身もまた、ドイツ人ではない様子でしたが、
とうとう故郷については聞かず仕舞い。
ロシア語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、
英語など多言語で指導しているとのこと。
「まだ、日本語はできないけどね」と断りつつ、
冷や汗をかきながらハンドルを繰る私の横で、
私の口からつい出てくる、
簡単な日本語を習得してしまおうと余念がありません。
また、ルーマニアからドイツに来たばかりという
40代の男性の家族にも会いました。
「仕事に車が要るんだ。免許を取るには、
来週の試験に合格しなければならないんだ。」
車の後部座席に、幼子と奥さんを座らせ、
交代しながら夫婦2人で受講しています。
街の中だけでなく、車社会としても
いかに外国人だらけで皆必死に生きている道路であるか、
いかに自分自身もフェアに運転する覚悟が必要であるか、
無言のうちに察知しないわけにはいかないのです。
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