伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第39回
患者が注文するドイツ医療

さて、大風邪をひいて訪ねた小さな病院の、
ドイツ語しか分らないという受付で、
会話集を広げて単語を指差し、やっとの思いで
しかじかの症状なので、診て頂きたいのです、と意を伝えると、
「どうぞ、待合室でお待ちください」
とドアを指し示されました。

初めて見たドイツの病院の待合室でした。
日本の待合室と同じように椅子が並び、
雑誌や子ども用の絵本や玩具が置かれています。
大抵、TVなど音を立てるものは全くありません。
大きく違ったのは、暖房のため、廊下やロビーではなく
ドアも窓も閉め切られた1つの部屋であること。

その閉め切られた部屋に一歩入ったその時には、
椅子に座って順番を待つ人々を一目見て、
「しまった、症状が軽いうちに来なければならない場所だった!」
とすぐに後悔しました。

皆、軽い咳はしていても顔色が良く、
熱にうかされた顔で来た私の様子を見て、
椅子から飛び上がらんばかりに驚いたのに、
必死に平静を保とうとしていたのですから。
よほど小さな子どもの突発性の高熱でもない限り、
大人ならば風邪をひいたかな、
というところで訪ねるのがきっと普通なのでしょう。

ようやく順番が回ってきて、診察室に入ると、
医者も立ち上がり、互いに名乗って握手して挨拶します。
そして、開口一番におっしゃるには、直訳すると
「私はあなたに何をして差し上げられるでしょう?」
その一声を聞いたとたんに、頭がくらりとしました。

何をして差し上げられるかと言われても…、
とっさに、何と応えたらよいのか分りません。
そうだ、この国ではゼロから自分で「述べる」ことが
必要だったのだ、と気を取り直し、受付のときと全く同じに
「私にはしかじかの症状がある。これらを助けて欲しい。」
と申し伝えました。

私が訴えた全てのしかじかの症状をぴたりと止める薬と
この時には抗生物質を処方してもらってお仕舞い。

以上は、人の一生を左右するような大きな病ではなく、
ごく日常的な健康管理内の範囲での経験です。
「どこまでの治療や情報を要求するか」は、
全く最初の、健康管理の段階から患者から医者への
訴求能力に因る部分があまりに大きいのです。
これまでの経験の中で強く意識していなかっただけに、
私にとっては、大きな驚きでした。


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2007年2月2日(金)

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