伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第63回
ドイチェポスト

私が初めて北京を訪ねたのは、
「もしかしたら、
いずれドイツに住むことになるのかもしれない」と
まだ自分自身の先行きがよく見えない頃でした。

北京空港から市街に近づくにつれ
バスの窓から、建築中のビルの群れが見え始めました。
やがて、その一つのビルの屋上に、
今ではすっかり見慣れた、黄色い地に黒文字で
「ドイチェポスト」と書かれた大看板が
高々と掲げられているのに気が付きました。
その時、ドイツ郵便の宣伝を中国で見るのは
私にとっては大変意外でした。

ただ、「ドイツもこうやって中国の背中に乗って
進んでいるならば、もしかしたら、
これから住む国として悪くないのかもしれない」と
期待にも楽観にもなりきれない、
漠然とした思いを持った覚えがあります。

郵便組織を民営化するか、しないか、という点では、
日本でも近年議論されていたようですが、
ドイツでは、1995年、
東西ドイツ統一の5年後には
民営化の道を選択しています。
郵便事業というシステムの運営を
ドイツ国内だけではなく、
海外、特に中国でも展開しようとする歴史は
それ以前から始まっていたということです。

いずれにせよ、ドイツの日常では
郵便物を満載した黄色地に黒いラッパのマークの
ドイチェポストの手押し車を押しながら
郵便配達人が1軒、1軒、ゆったりと徒歩で
手紙を配ってまわる姿が見られます。
そんな、のどかな風景を見ていると、
ドイツ人でさえ、
この組織が、まさかアジアの一国の中で、
活躍の場を広げようとしているとは
大半の人が露にも知らないことかもしれない、
と思えてきます。

後年、再び北京を訪ねると同じ場所には、
同じく黄色地に黒い文字ですが、ドイチェではなく
「チャイナポスト」と書かれた別の看板がありました。


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2007年3月30日(金)

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