伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第81回
世界地図の上の日本

ドイツに来て日本からの荷解きもままならぬころ、
アパートの向かいの家屋で大掃除があったとみえ、
大小さまざまの不用品が通りに積み上げられました。
こういう大型の不用品は町役場の担当部署に
個別に連絡して、収集廃棄してもらいます。
予約した収集日の直近から早々と路上に出されるのですが、
山は大きくなったり、小さくなったりを繰り返します。
もしも、道歩く人がその不用品の山の中から
使える、欲しい、と思うものがあれば、
そのまま黙って持っていってもよいという、
暗黙のリサイクル・システムがあるようです。
その中に、一畳ほどの大きさの世界地図がありましたが、
これは、誰も欲しいと思う人がいないらしく
ずっと、とり残されたままでした。

窓から目を凝らして地図の上を無意識のうちに
「日本」を探すのですが「見えません」。
いわゆるミラー図法と呼ばれる地図帳によく載るもので、
地図の上下の地形が実際よりやや幅広く見えるものでした。
インテリア品としてデザインされているものの
そう古めかしい地図ではありません。
でも、中国とアメリカに挟まれ、太平洋を囲んだ
いつも日本で親しむ世界地図とはずいぶん違います。
どうやら、大西洋を挟みアメリカ・アフリカと
欧州を中心にした地図であるらしいと分りました。
ユーラシア大陸の右端に
太平洋が少しだけ顔を出しています。

ちょっと気になるので翌朝、戸口を出て
その地図の傍まで確かめに行きました。
カムチャッカ半島の延長に
ユーラシア大陸からぷらんと連なるように
島の群があります。
その中に、蚕が頭をもたげたような形の
親指大の島があり、これがどうやら日本らしいと分りました。
日本で、毎日の天気予報図で見ていた、
タツノオトシゴの形とはえらく違うのはともかく、
畳一杯大きく広がるユーラシア大陸に対する
その大きさがショックでした。

その地図は、夕刻にはやって来たゴミ収集車に
投げ込まれてしまいましたが、この地図の全形だけは
私の目には強烈に焼きつきました。
欧州からみると、アジアは同じユーラシア大陸内にある
隣国同士、アメリカとは異なり
大海を挟むことが無い、
より近い親しい関係に見えたのです。


←前回記事へ

2007年5月11日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ