伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第88回
さあ、窓を大きく開けて音楽を

明るい日差し、
カラリと晴れて澄んだ空気、
そよ風に揺れる緑の木陰…。
こんなに気持ちが良い季節を迎える頃になると
あちらこちらの家の開け放した窓から
ピアノ、バイオリンなどの楽器の音色が聞こえてきます。

人によって、この音が騒音になることもあるので、
集合住宅など、隣人同士で「練習時間帯」の
約束事をすることもあります。
でも原則として、皆、このシーズンは、
家の窓を全部、全開にして、
あるいは、ベランダに譜面台を持ち出して、
ドォ〜ド・ソォ〜ソ・ラァ・ラァ・ソ〜ォ!
(きらきら星)などと「練習時間帯」の中でやっています。

聞こえてくるのは名演奏というより、
どちらかというと易しい曲の迷演奏が多いのです。
でも、そんなことよりも、
空気の流れにのるように大きく音をたなびかせる風景は、
練習させられている小さな子どもはともかく、
傍で聞いている音楽の先生や大人は気持ち良さそう。
は〜い、もっとのびのびと自由な音色で…などと
先生が身体を揺らしながら、
生徒に声を掛けているのが聞こえてきます。
ああ、日本ではこんなことなかったなぁ、
ドイツらしいなぁ、と思うの日常の一コマです。
ただし、許されるのは「音楽練習」だけで、
CDなどでの「音楽鑑賞」では、
年中、屋外に音を漏らさないようにする様子。

もちろん、恒例の夏の音楽祭を控えて、
世界中から音楽家や愛好家がドイツに集まるシーズンも間もなく…
楽器のケースを携えて、譜面を広げて読む、
その道のプロの姿が、新幹線の中でよく見られます。
防音した楽器や部屋で、毎日何時間も練習する、
プロの玉子もドイツには大勢いることでしょう。

でも、普通の生活の中では、
通りを歩いていても、異なる窓から
全く同じ練習曲が聞こえてくることがありません。
時折、聞こえてくる、ごく普通の人の
音楽練習の音色を聞いていると、楽器や歌声そのものの
「音」を心の底から思い切り楽しむことが
何よりも優先されていて、
だからこそ、それが「私の音楽」だと言わんばかりです。
音楽を楽しむ人の数だけ、
音色としての色彩がたいへん豊富で驚きます。


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2007年5月28日(月)

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