伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第89回
「時間財布」と「お金財布」

ドイツに住む人は
「時間財布」と「お金財布」と2つのお財布を持って
生活のやり繰りをしています。
入っているのは、それぞれ「時間」と「お金」。
この2つの財布のうち、そのどちらにも
たっぷり入っているのが本当は理想なのですが、
社会全体のしくみによって、
どちらかというと「時間財布」の方だけは、
いつも豊かだという人が多いように思います。

自分の「時間財布」を一生懸命使って「楽しむ」のですが、
分刻みで賢明に働くアジア人の視点で見ると、
怠惰のかたまりのようにも見える風景です。
しかし、これが意外と、真面目に「楽しんで」
時間を有意義に使っていないと、
たちまち「お金財布」の中身が足りなくなって、
本当に大変になってしまうのです。

複数の職業をこなせる人も自力での商売をする人も、
仕事をすることによほど積極的な考え方を持ち、
それをきっぱり実現できる度量と才能がある人でなければ、
「時間財布」の中身を擦り減らしてまで、
「お金財布」の中身を増やすことには
あまり意義を感じていないようにも見えます。

「時間財布」を「ゆっくり楽しむため」に使った方が、
結局、有意義な「お金の節約」に繋がる、つまり、
「お金財布」の中を減らさずに済むので、
「賢い」じゃないかと考えているようにも見えます。
自力でゆっくり家の大工仕事をしたり、
庭の手入れをしたりしたほうが
業者に頼むよりもずっと安上がり、なのも事実です。

ドイツにも、一応、日本や他の国々と同様、
「時は金(カネ)なり」という諺がちゃんとあります。
この諺は、アジアでは、
「時間を大切にして、一分一秒を無駄にすまい」
と「寸暇を惜しむ」意志があります。
けれども、ドイツ版の「時間を無駄にすまい」には、
「時間をたっぷり有意義にお金の節約のために使おう」
という意志が見えます。

「時間をたっぷり使う」発想が
必ずしも惰性に陥らないのは
もともと「勤勉なドイツ」らしいスタイルです。
10時間が5時間で済むことには意義を感じても、
1分を1秒にすることまでには
あまり意義を感じていないのかもしれません。
逆に1ヶ月を1年にして、「時間財布」を使うことで
「お金財布」の中身を増やそう…
という意識は持ち前の忍耐強さに支えられて、
生きるための必須の知恵となっているようです。


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2007年5月30日(水)

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