伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第92回
アジアは消費のブラックホール

ドイツ人にとっては、国民的英雄のF1レーサー、
ミハエル・シューマッハが引退という言葉を挟みながら
上海の中国グランプリに出場したのは、
2006年10月、昨年秋のことでした。
この素晴しい英雄が活躍する舞台を決して見逃すまいと、
ドイツ中のTV番組は一時、上海、上海…と
必ずやシューマッハが錦を飾るに違いない、
その舞台の全てを知りたい、
といわんばかりに上海特集を組みました。

今やニューヨークに匹敵する、アジアのメガシティ上海。
証券市場は右肩上がり、
株や新規ビジネスで億万長者が溢れ出て、
高級車を買いまくる人で溢れる上海…。
そう言葉が本当に雑誌や新聞を飾りました。
でも、一般庶民としてのドイツ感覚では、
「へぇ、そんなことがこの世に本当にあるんだろうか?」
という程度に不思議な気分で
聞いた人がきっと多かっただろうと思います。

職場での駐在や旅行を通じて、
実際にアジアを体験した人が増えたとはいえ、
よほどのアジア通の人でない限り、
まだまだ、一般人には未知の世界のアジアです。
個人旅行ならば、よく分らぬ遠くのアジアに行くよりも、
ずっと近くのアフリカに、ライオンやキリンを見に行く
サファリ・ツアーに参加した方が
よほど親しみやすく現実的、と思われています。

それが今年に入って4月末の上海モーターショーで
再び上海が注目をひくことになりました。
「欧州の高級車が中国で人気」というだけでなく、
「彼らは、運送費や税金によって、
欧米価格の2倍にもなってもなお買ってくれる。
政府は税金を引き上げ続けているのだが、
スーパーリッチが次から次へと生まれてくるのを
誰も止めることができない」。

そういうお金の使い方そのものがとても不思議な上に、
そういうことが現実に起こるものなのかと
誰もが目を丸くして「これって本当にそうなの?」
と聞きたくなるのが、
今のところ、ごく普通の一般の反応です。

「でも、どうしてわざわざ高い欧州品を買うの?」
アジアから見ると、欧州のものが珍しいし、
とても素敵なものばかりに見えるのだろうと言いかけて、
私も、だんだん言葉が続かなくなりました。
欧州のごく普通の人から見ると、アジアは本当に摩訶不思議。
何だかよく分らないのだけれど、
次から次へと欧州の消費材を好んで飲み込んでいる、
巨大なブラックホールのように見えるのです。


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2007年6月6日(水)

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