伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第110回
外国で必要な3つのカード

少なくとも、ここ欧州で、
皆と一緒に暮らしていこうとするときには、
3つのカードが要るのではないかと思っています。
名刺やクレジットカードのようなものではありません。
互いに差し出しあうことはなく、口に出すことも滅多にない、
「心の中に用意しておくカード」です。

というのも、欧州では、人種が異なるけど母国は同じ、
お互い母国は違うけれど、宗教には共通性がある、など、
さまざまな人と人とが行き交うパターンが
街の中に四六時中あります。
特にフランクフルトのような、
西からも東からも、北からも南からも
人々が頻繁に行き交う都市では、なおさらです。
皆、誰もが似たような容姿で、
そして母国も同じ者同士だけで一つの国の中で過ごしている…
という状況とは何かが常に違います。
多様な状況の中で生きていくためには、
「あなた」そして、「私」という個人が
明確に分かり合えることが大きな助けになることがあります。
この「個人」を明示するためには、
その3つのカードが「心の中」に常に必要だと思うのです。

1枚目のカードにあるのは、「自分の名前」です。
これは誰もが必ず1つ持っています。
名前があることが
人として、お互い認め合うことの第一歩です。

2枚目のカードには、「自分の国」です。
これは、母国が決まっていれば、大抵、それに相当します。
複数であれば、自分で選択した、その国です。
国の名前の他、国旗、国歌、習慣…暗黙に含まれます。
もしも、すでに在るものが
自分の思いと異なるものであれば、
それに代わる、何か、自分を表すのに足るものを
予め、心の中に自分で用意しておく必要があります。
国を一歩出ると母国の存在を良くも悪くも、
痛いほど思い知ることが多いのです。

3つ目のカードには、その人の行動の規範としたり、
心の拠り所となったりする「宗教の名前」です。
その日1日の暮らしや行動を振り返るとき、
その善し悪しを照らし合わることができる
道徳のようなものが語られているもの、です。
あるいは、お盆やお正月の暮らし方など、
ごく平々凡々とした暮らしの中で、人として楽しく
それを楽しみにして過ごすための行事習慣が
根ざしているものの名前です。
「何かなぁ??でも、あんまり…」などと
3枚目のカードを無いと答えたり、曖昧にしたりすると、
「自分の行いを振り返る規範を全く持た無い人なんて!?
あなたは、今日まで、人間としてどう育てられて、
どう生きてきたのか?」と驚かれ、大抵、信用を失います。
もしも、既存のもので語れない場合には、
それに代わって説明できるものを
予め自分で用意しておく必要があります。

この3つのカードが心の中にあれば、
その記している内容はお互いに異なっていても、
互いに人間として差し向かうことができる、
「あなた」そして「私」という2つの「個人」が成立します。


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2007年7月18日(水)

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