伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第123回
グーテンベルグの国だから

ルネサンス時代の3大発明の1つ、
火薬・羅針盤に並ぶ、グーテンベルグの活版印刷機には、
今も「ドイツ人の誇り、ここにあり」です。
ゲーテが生まれる300年ほど前のこと、
ヨハネス・グーテンベルグが15世紀半ばに、
錫、鉛とアンチモンを溶かして作った合金活字を
組み合わせて版を作り、油性インクを塗りこんだ上に
紙を当て、圧力を掛けて印刷したというのが、
この初期の印刷機。
人の手で写本するしか方法がなかった時代に、
聖書を大量に印刷・製本する事業に成功しました。

彼が工房を持っていたマインツと呼ばれる、
フランクフルトから電車で小1時間の街に、
グーテンベルグ博物館があります。
ここには、世界最古のグーテンベルグ聖書が
暗室の中の僅かな光の下で厳かに公開されています。
これを見ていると、グーテンベルグの時代から、
印刷とは、さっと手軽にプリントアウトと
作業を急ピッチで済ませることが目的ではなかったのだな、
と気が付きます。

聖職者など当時の主な読者が要求する、
聖書としての重厚感にも応えなければならず、
機械化したゆえに、質が落ち、
安っぽくなるのは到底、許されなかったろうと思います。
その当時の印刷に使われたのは
イタリアから取り寄せた上質紙。
この国の機械化の目的は
「素早く、安く済ませること」ではなく、
「人間技だけの時よりも更に質を高める」ことにあります。

「機械で印刷すること」そのものに対する
高いプライドが質の高い製本や装丁へと繋がります。
印刷物の代表格としての「本」や、読書することが
今も随分と大事にされているな、と思います。

電車やバスなど公共の乗り物の中には、
日本のような雑誌の見出しが並ぶ「中吊り広告」が
ほとんどありません。
その代わり、皆、大抵、カバンには、
車中でさっと取り出せるよう、本を1冊持っています。
でも、本は高い買い物です。
くたくたになるまで、読み回された図書館の本や、
価格が半額近く安くなった頃を見計らって買ったり、
古本市で上手に探したりしたものが多そうです。
けれど、グーテンベルグの国だから、
「本」を買うときに掛かる消費税は、
命を支える食料品と同じ7%。
一般消耗品に掛かるときの19%ではありません。


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2007年8月17日(金)

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