伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第126回
商談はフロックコートの正装で…

日本では、あまり見られなかったけれども、
ドイツに来て、ああ、なるほど、
こういうものだったのか、と
たびたび目から鱗が落ちるのは「紳士服」です。
しかも、フランクフルトという、
世界各国から大勢が出入りするお土地柄。
特にメッセ(見本市)がある会場では、
よく気をつけていると、こんな風景が見られます。

フロックコートに、アスコットタイ、
黒のトップハットを頭にのせて、
銀縁の眼鏡、八の字に整えた口髭(付け髭かもしれません)、
手には白い手袋と杖を持つ、という
きちっと隙のない、紳士服の昼間の正装で
商談に訪れるという風景…。
何世紀前の正装やら、と思うまでもなく、
会場に居るビジネスマンの多くは背広姿です。
その中に混じって初めて、この正装を見たときには、
確かに美しいけれど、
その一寸の隙を許さぬ気配に驚きました。
この正装で訪れる人は毎年、何人もいらっしゃるようですが、
まるでシャーロック・ホームズとワトソン博士のように、
大抵お2人の組で商談を進められるようです。

3年ほど前のメッセでは、たまたま、中国ブースで
商談中の方々の横を通りかかりました。
きりっと正装したお2人は、
ブースに用意された折り畳み椅子に腰掛けて
背筋をピンと伸ばし、
正面の床にカチっと垂直に立てた杖の頭に
両手をピシッと重ねています。
お2人とも、眉ひとつピクリとも動かさず、
眼鏡や髭の隙間から、いかなる表情をこぼすことはなく
大変、厳しいお顔をされています。
見積もりを依頼されたらしい、
中国から来たと思われるブース担当の男性も、
もちろん、真新しいスーツで身を固めています。
お客がブースに訪ねて見積もりを依頼されるだけでも
はるばる来た甲斐があり、とても喜ばしいことだろう、
と思われたのですが…。
あれほど、必死に脂汗をふきふき、
電卓を叩く指が重そうな、
中国セールスマンを私は初めて見て驚いたのです。

今でこそ、正装ではないときの、
TシャツとGパン姿の様子もさっと想像できる程度に
西洋人を見慣れ、お顔立ちから
相手の年齢の察しもなんとかつくようになりました。
でも、欧州に来たばかりでは、相手の服装が
相当、大きなプレッシャーになると思います。
しかも、この正装は、湿気が非常に少ないため、
気温が上がっても暑くはなく、胸元を締めていても
汗をかかない、欧州ならではのスタイル。
近年には、このフロックコートの
きちっとした正装の方々を、
きりりと巻き上げた、美しいターバンの正装で
待ち構えているブースの近くで、
よくお見かけするようになりました。


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2007年8月24日(金)

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