伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第129回
外国人の気軽さで…

日頃は、ドイツの旧東・旧西の区別を感じることなく、
どちらも同じドイツでしょ、
という感覚で日々を過ごしています。
でも、意識するとすれば、税金還付の時でしょうか。

「所得税」と共に、「統一税」も毎月徴収されていますので、
そのうちの僅かの金額が、年間の還付対象になります。
税理士先生の話によると、東西ドイツの統一後は
すぐに無くなるはずの税金だったのに、
「それが…まだ、あるんですよ」。
還付金項目の中で、この欄を見るたびに、
ドイツって、本当に2つの国が統一したのだな、と思います。

東西のドイツが統一されてから、
間もなく20年近く経ちます。
この国を知れば知るほど、
2つの国が1つになるということは
想像以上に激烈な変化であったろう、と思います。
どちらの国の人にとっても、
突然、「明日から外国に住め」と言われたような、
先が見えぬ不安に襲われる人が多かったことでしょう。
また、その変化を受け止めたときの年齢によって
乗り越えるべき変化の大きさが違ったかもしれません。
「変化はチャンス」でもあっただろうし、同時に
「怖い」と受け取った世代も多くあったろうと思います。

知らぬ存ぜぬの外国人の気軽さで、
ドイツに来て間もなく、旧東ドイツの都市に
連絡先を告げるメモを残して所用で出かけました。
でも、帰ってから周りのお年を召した方々に
強く叱られてしまいました。
「何故、そんな所に行ったのか?
で、どうだったのか?」と。
食べ物も見る物も珍しく、物価も安くて、
外国人としては、何ら悪くなかったのです。
けれども、正面切って「良かった」とは
答えられないほどの剣幕でした。

フランクフルト郊外の工場見学会で、
こんな人々にも会いました。
「私たちは、ライプティヒから参りました…」
思わずそう訳したくなる、晴れやかな笑顔と
明快で丁寧な英語で話しかけてくれたご婦人がいました。
孫娘がこの工場に働きに来ており、
今日は、孫娘がこの見学会に招待してくれたのだ、
と誇らしげで、とても嬉しそうです。
孫娘の母親も一緒でした。

この方は、必ずや来る、明るい未来を信じて、
元気で行っていらっしゃい、と
フランクフルトで職場を見つけた孫娘の背中を
ポンと押してあげたのでしょう。
旧東ドイツ・旧西ドイツの町の間で、
働きに出たり、出したりするほどの勇気を、
誰もがそう簡単に持てるわけではないのだ
と知りました。


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2007年8月31日(金)

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