伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第147回
秋の味覚、野鹿のシンケン

リンゴを山積みにしたトラクターが
行きかう頃、レストランや食材店で
ドイツの秋の味覚のご披露がピークとなります。
晩秋のある日、いつもの肉屋の店先に並ぶと、
日頃、見慣れぬ一塊のハムがあります。
シンケン(生ハム)のようには見えますが、
上等の鰹節1本ほどの、
他の商品よりもずっと小さなサイズに作ってあり、
よく切れるナイフでスラリと切り取ったあとが
艶やかに、半透明の深紅の肉色が見えます。

おや、これはきっと、季節のシンケンに違いない、
美味しそうだなぁ、と見当つけて
肉屋の女将さんの顔を覗き込んでみると、
「今日はこれになさい!いいわよぉ!」と
やけに自信あり気な様子。
何のシンケンですかと聞いてみるのですが、
返ってくる単語を聞き取れません。
???…という顔をしていると、
肉屋の女将さん、
両手をジャンケンで出すハサミにして、
ご自分の頭の耳元のところで、チョキチョキ…。
日本でなら、まさに蟹…なのですが、
まさか、ドイツで蟹なんてね…。
まだ、分からないの?という様子で、
これの赤ちゃんはバンビだ、と言うので、
ようやく、野鹿だと分かりました。

じゃあ、今日はこれを100グラム!と注文すると、
今度は「ダメだ!」と牽制されました。
「ダメよ、これは100グラム10ユーロもするのよッ!
50グラムになさいッ!
これはホントに薄〜くスライスして大事に食べるのよ。」
確かに普通の商品の5倍の値札が付いています。
ハイ、分かりました。50グラムにします。
ここは素直に言うことを聞いたら、
女将さん、満足気ににっこり微笑むと塊を持ち、
くるりと背を向けてスライサーの前に…。

スライサーの脇に積もり始めるのは
透けるほど薄紙のような深紅の野鹿のシンケン。
ドイツでこんなに薄くスライスした
見た目も美しく味わい深いシンケンを
体験したのは初めてでした。
探すのはなかなか骨が折れますが、
ドイツにも美味しい食材がある…ようです。


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2007年10月12日(金)

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