伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第156回
ドイツで読んだ「ローマ人の物語」

余暇には、フランクフルト周辺にある
ローマ帝国時代の遺跡を訪ねては
赤茶けた土器の破片ばかりを眺めていました。

今から2000年以上も昔から、西洋の土器には、
東洋の土器とは異なる「完璧さ」が
求められていたようです。
ローマ人が好んだ焼き物は、
色や形がどれも均一なものばかり。
日本では、ごく普通だった、
土くれの持つ味わいに
侘び寂びを求めるような鑑賞方法は、
ここでは必要なさそうで残念でした。

結局、ローマ帝国時代の土器を
私は、どう鑑賞してよいか分からない、
という思いから、その歴史を知ろうと、
偶然、手に取ったのは、
塩野七生氏の「ローマ人の物語」のうちの1冊、
第7巻「悪名高き皇帝たち」でした。
この巻には、紀元1世紀ごろの現在のドイツ、
ライン川やドナウ川を挟んでの
激しい攻防と武将の頭脳戦の模様が記されています。

欧州北部の厳しい気候の年間変化や
運河の流れの激しさ、
アルプスがなす欧州地形の険しさが
具体的にイメージできるようになって初めて、
これは素晴らしくドラマティックで面白い!
と一気に読み終えました。

今のイタリアから、はるばるドイツまで、
道中の苦難を越えながら、
本当によくここまで来たなと、その距離を実感します。
言葉や習慣が全く違う異郷で
異国人に対する治世を維持するのは大困難です。
異郷に拠点を作りながら、異国人と共に
次の戦略をいかに賢く練るかという場面には、
人間同士の精一杯の知恵のぶつかり合いが見えます。

ローマ帝国の時代を横切る
歴史上のヒーローやヒロインが、
石像や古銭に彫り込まれた姿から、
男気なり女気なりの血気に溢れた
「生身の人間」の姿に甦ったかのようでした。


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2007年11月2日(金)

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