伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第157回
不揃いリンゴのお陰かな

フランクフルトの近郊には、
たくさんのリンゴの木があります。
しかも、どの木も年1度、
ちょっと枝の手入れをするか
しないか程度で、あとは常に放りっぱなし。

春に、その年の白い花をつけたあとは、
まだ青くて小さい実を選別するでもなく、
ひたすら、そのままの姿で実りを待ちます。
だらだらと延びた細い枝先まで、
びっしり実が付く枝もあれば、
ほんの2つ3つが、しがみ付くだけの枝もあります。

夏の始まりには、大抵、一陣の嵐が来ます。
強い風で、落ちてしまうべき実や折れるべき枝は
地面に転がり落ちます。
秋の実りのころまで、無事に枝に残るのは、
文字通り「不揃いのリンゴ」ばかり。
2つとして同じものはありません。
そして、その収穫の季節でさえ、
その年要る分だけを拾えば、あとはどれだけ、
見事な実がなっていても、枝に残したままです。
当たり年には、もったいないと思うほど残ります。
逆に裏年には、全く残りません。

冬が来て、リンゴ自ら最後の実を
ポトリと落としたあとも
拾われないなら、それは地面に転がったままです。
しばらく猿酒の芳香をあたり一面に放ったあと、
次の春になるころには土に返ります。

サクランボやプルーン、杏の木も
万事この調子で不揃い果実ばかり。
いつ見ても、本当にこれで良いのかと
言いたくなるほど、人間は手を貸さず、
ただひたすらに自然の中に放りっぱなし、です。

こういう自然に任せきりの実りのサイクルは、
自然界で鳥や虫など小動物の豊かな食料供給源として
機能しているのでしょう。
ネズミや害虫が人家に侵入して走り回る、
人間の食料を知らぬ間に食い荒らす、
カラスがゴミ袋をつついて道を汚す、など
動物が人間の住まいまで出てきて
悪さする光景が、ここでは、あまり見られません。
もしかしたら、不揃いリンゴのお陰かな、
と考えているところです。


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2007年11月5日(月)

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