伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第207回
水を流すようにはいきません

自分でも気がつかないうちに
少しずつじわじわと怒りのコブシを握り締めたのは、
おそらく生まれて初めてでした(第206回)。
日本の日常生活で、怒りを強く感じることはあっても、
何らかの捌け口を探して、
水を流すようにサッと解消しようとするものです。
少なくとも私にはここまで、
怒りを怒りとして意識することはありませんでした。

しかし、ここで怒りを爆発させるのは、
フェアではないし、賢いやり方ではありません。
爆発させれば、その時点でこれまでの
「話し合い」の内容は全て撤回。
話し合いは「終わり」ではなくて「ゼロ」になります。
そして、永久未解決、つまり「ケンカ」に代わります。

怒りのコブシをぐっと握り締めたまま、
まさに渦中の真っ只中…。
ドイツに来てからずっと体調が良くないのに、
自ら始めた「話し合い」のお陰で頭も身体もフラフラでした。

でもこれは、欧州流の「話し合い」のごく基本形です。
意地悪するどころか、前向きな話が前提で
互いに話したり、聞いたりするので時間が掛かります。
短時間に、瞬発力で多くの仕事をこなすのが得意な
一般的なアジア人の気力と体力では持ちません。

この粘り腰を1ヶ月続けられただけでも、
だんだん周りの状況が掴めなくなり、
自ら恐怖に陥りやすくなると思います。
精神的に逃げ出したくなるか、
途中でスタミナ切れしそうになります。
「あ、差別された!」と勝手な理由をみつけて、
さっさと自ら回れ右をしたくなります。

「今は、渦中の真ん中に居るのだな…」と、
ぼんやり意識しながら、
気力と体力を維持するのが精一杯でした。
この頃、私は、豊岡先生のコラムの重要さを
認識できずに、ただ目を通していただけでした。
ドイツのハイツング(セントラルヒーター)が
周りのドイツ人には何ともなくても、
多くのアジア人の身体に強い影響があることさえ、
私は、まだ全く気がついていなかったのです。


←前回記事へ

2008年2月29日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ