伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第213回
やみいもぉ、くらはあぃ!

学生時代、私は2年ほど教養教科のドイツ語を取りました。
「今どきドイツ語なんて、将来の肥やしにもならない」
と甘く見ました。苦手中の苦手でしたので、
ギリギリで合格点が取れたとたん、全て忘却の彼方です。
ドイツ語に悩まされる人生が再び始まるなんて、
どうしてあの時、予測できたでしょう?

フランクフルトにやってきてから
私に聞こえたドイツ語は、聞いたことがない音の塊でした。
この地で話されているドイツ語は、
普通の日本語を発声するときの音の領域よりも、
ずっと低音にシフトしています。

日本語は、ヒバリがピイチク鳴いているような高い音、
ドイツ語は、グルルルルゥと虎が威嚇の声を
喉奥で鳴らすような低い音でできています。
ヒバリの声で虎語を使って、
一生懸命、虎に話しかけても、虎には???
…悪気はないのにサッパリ聞こえない様子。

普通の日本語の発声と同じ、高音領域を使って、
ドイツ語をドイツ語らしく話しても、どうも通じません。
ドイツ人には、日頃の生活の中で、
高音領域をドイツ語として聞き取ろうとする
耳の準備があまりない様子。
高音領域を使って必死に発声しても、彼らには、
「ドイツ語」として聞き取れないのでしょう。

ドイツ人に分かるようにと試みるには、
まず、ドイツ人に聞き取れる低音領域に
ぐっとシフトした声で話そうとしなければなりませんでした。
これに気が付いたときにはショックでした。
低音領域の声を微妙に発し分けるときに使う、
身体の筋肉の準備が日本人にはありませんもの。

例えば…気が向いたら、どうぞ試してみてください。
口に水を含んで、普通、天井を向いてする、
ガラガラうがいを正面向いてガラガラうがいに…、
できそうでしょうか?
水をこぼさず、真正面を向いたまま、
鏡に向かってガラガラうがいできるときに使う力が、
ドイツ語をそれらしく発音するときに
必要な筋肉の力の1つです。

このような発声のための筋肉が準備できないうちは、
「ジャガイモ、ください!」と言ったつもりでも、
「やみいもぉ、くらはあぃ!」くらいにしか
相手には聞こえないんだな、と気付きました。


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2008年3月14日(金)

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