伏見緑さんが語る「あなたの知らないドイツ」

第224回
「カエル大王」の勝ち!

夕暮れの電車で、私と向かい合わせに座った、
その3歳ほどの男の子は
勤め帰りらしい、若いお母さんと一緒でした。
大きな声で「なぜ〜、どおして〜?」を繰り返します。
さすがのお母さんも答えるのに疲労困憊です。

これ以上、お母さんに問うのはマズイと読んだのか、
その男の子、今度は、私に向かって問うてきました。
「ねぇ、なんていうお名前?」
「ミドリよ。あなたは何ていうお名前なの?」
マックスとか、トビアスとか、ニコラスとか、
ドイツらしいの男の子の名前が返ってくるかと思いきや
それ、来た!とばかりに、威厳を正すや、
「我輩は、カ・エ・ル大王であ〜る!」とのご返答。

「えッ、蛙?」と思った、その一瞬の虚を突いて、
「ねえ、どうしてお鼻がそんなに小さいのぉ〜?」
と追加攻撃。さ〜て、これには何と答えたものやら。

「私は、貴方のお鼻と同じ大きさだと思うけれど」、
「お母さんのお腹に半分忘れてきたわ」、
「私は、分からないわ」、「そんなこと言っちゃダメよ!」。
何を言ってもこの子は、きっと巧みに返してくるな…と、
ふとマジメに思案してしまったので、
私は、返答のタイミングを逃した上に、
つい日本人の悪いクセが出てしまい、沈黙してしまいました。
この勝負、カエル大王の勝ち!

こういう場合に、何も言わず、沈黙するのは良くないのは
頭の中では、十分すぎるほど分かっています。
もしも、叱ったり注意したりすべき、と判断したなら、
私が、世間の大人として、
この子にそうするべき立場にいたのも分かっていました。
けれど、私はすっかり虚を突かれて唖然としたまま。

このお母さんは、私の沈黙を見て、きっと困ったでしょうね。
「そんなことを言うものではありませんよ!」と、
カエル大王は、お母さんに強く諭されてしまいました。

小さな子どもにアジア人だからとバカにされた?
いや、それは考えすぎです。
欧州人の大人とて、この巧みなカエル大王には、
ふいを突かれて返答に窮す格好になるでしょう。

私では相手にならんと知ったあと、このカエル大王は、
すぐに私の隣の席に座っていた見知らぬ男性を捕まえて、
「ね、お名前なんていうの?」を始めていましたから。
私が降りる駅に先に着いてしまって、
その勝負の先を見届けることができず、残念でした。


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2008年4月9日(水)

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