死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第11回
タバコをやめると、なぜか出費が多くなる

私もかつては一日に八十本もタバコを吸っていました。
もうやめてから三十年以上たちますが、
どうも咳が出て、喉の調子がよくなかったのです。
倹約するために、禁酒・禁煙という人が案外いるんですが、
これはちょっと考え違いじゃないでしょうか。
タバコをやめたことのある人は誰でも経験していると思いますが、
やめてしばらくは頭がボヤッとしている。
それがすぎると、こんどはやたらに食欲が増進して、
とくに甘いものが食べたくなるんです。
うっかりすると、タバコ代より高くつくんです。

しかも、よく食べるものですから、
体がふとってきて、それまで着ていた洋服が着られなくなる。
洋服まで総入れ替えになりますから、
タバコをやめてもお金が貯まらないということは、
算術的にも証明できるわけです。

まあ、タバコをやめるのはいっこうにかまいませんが、
貯金が目的でやめるのは、
いまの時代に合わないでしょう。
お金を貯めるには、
たしかに欲望をある程度犠牲にしなければならないけれども、
もっといまの時代に合った方法をさがすべきです。

お酒にしてもそうです。
お金を貯めるために晩酌をやめるなんていうのは、
いかにもわびしすぎますし、
それでお金が貯まるというものでもありません。
要するに、日常生活に必要なものまで切り詰めて
貯蓄をするような時代じゃないわけです。

同じような意味で、
食費を切り詰めるなど愚の骨頂というべきでしょう。
むかしは、爪に火をともすという言葉があったくらいですから、
さしあたり食うものも食わずに
金を貯めるというのは、
いちばん実感があったんです。
でも、それは世の中全体が貧乏だった時代の話です。

いまは、みんなお腹いっぱい食べています。
むしろ健康のために節食しようという時代でしょう。
お金を貯めるために、
パンと水だけですごすなんて考えられないし、
またできるものではありません。

食べないほうが健康的になった時代ですから、
貯蓄と食費を切り詰めることとを
結びつけて考えないほうがいいのではないでしょうか。





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2013年4月12日(金)

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