死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第13回
時は金なり

私は何度か、アメリカへ行って講演をしたことがあるんです。
そのとき、進行役の日本人が、
私の収入を聞いてくる。

日本人は、ふつう「あなたの収入は?」
などとあからさまには聞かないものなんですが、
あちらに住んでいると、
アメリカの習慣が身につくようです。

私が、このくらいですと答えると、
今度は講演を主催した新聞社の社長あたりが、
「ミスター邱は、年収何百万ドルです」と言って私を紹介する。

講演する人の収入の多寡によって、
聴衆の尊敬の度合いが違ってくるというんですね。
最初のときは、おもしろい紹介の仕方が
あるものだなと思っていたものですが、
そのくらいお金が重要視されているのです。

まさか日本へ帰って来て、
人の収入を聞いたりはしませんけれども、
私たちの人生を構成しているいくつかのファクターの中で、
いちばん大きなパーセンテージを占めているのは、
お金だと思うんです。

お金と同じように重要なものに、時間があります。
タイム・イズ・マネーというのは、
イギリスのある小説に出てくる言葉なんだそうです。
それが、明治時代に時計が輸入されるようになってから、
「時は金なり」と格言みたいに使われて、
日本でたいへん流行するようになったと、
なにかの本で読んだことがあります。

したがって、日本人は時間の重要性を
よく知っているはずなんですが、
列車を動かすときは発着の時間に正確な鉄道も、
お金の使い方はデタラメです。

だから、時間とお金が一致するかどうか疑問ですが、
私の見る限り、お金の動かし方が上手な人、
あるいは、ごく単純に言って収入の多い人は、
さすがに時間の使い方もうまいようです。

お金も時間もともに重要なものですが、
性質はかなり違っています。
お金は使わなければ残っていくけれども、
時間は使わないとそのまま消えていく。

ちょうどホテルの部屋と同じで、
今日半分しかお客が来なかったからといって、
明日に回すことはできません。

それだけに、時間の使い方は
たいせつだというのが私の考え方です。





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2013年4月14日(日)

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