死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第36回
お金は、使わなければ貯まるのが原則

私はいつのまにかお金儲けの大先生にされてしまったようです。
テレビや講演などに引っぱり出されると、
かならず「お金の貯まる秘訣は何ですか」と、
きわめて初歩的な質問を受ける。
そのとき、私は決まってこう答えることにしています。

「お金がはいってきても、
使わないようにすればよろしいんじゃないですか」
すると、みなさんよく笑うんです。
笑った人の気持ちの中には、
ひとつには、当たり前じゃないかということ、
もう一つには、それができないから困っているんじゃないか。

その二つがあって、
なんとなく笑いを誘われるのではないかと思うんです。
むかしから日本では、爪に火をともして
お金を貯めるという表現をします。
食うものも食わず、着るものも着ないで、
ロウソク代わりに爪に火をともす。
たいへんケチな話です。
そのくらいケチケチしないとお金は貯まらないんだと、
むかしの人は考えたんですね。

ところが、いまみたいに世の中が豊かになってくると、
ちょっとくらいお金を使ったからって、
べつに生活に困るわけじゃない、
むしろ、お金は使うためにある、
お金は貯めるだけが能じゃないと考える人がふえてくる。
そういう人たちは、爪に火をともすなんて
どうも性に合わないと反発するんじゃないかと思うんです。

そういう世の中になっても、
やはりお金を貯めるためには
お金を使わないことが最大の秘訣だと言いたいのですが、
いまの時代の人たちは、ただお金を使うなと言われても
釈然としないでしょう。
ですから、どういう形でお金を使わないようにするか、
逆に言えば、お金をうまく使うにはどうすればいいかを
勉強することから始めるのが順序だと思います。

むかしのような極端なケチケチ生活を送るだけでは、
お金に逃げられる心配もある。

社会生活をしていくうえで、人間関係を壊さない程度に、
どうやってお金を使わない工夫をするか、
それがたいせつなのです。

これは、いまの日本の国家財政を考えてみるとよくわかります。
とりあえず収入はふえないわけですから、
支出を締めるしかない。
ところが、経営者と違って、
政治家というのは財布のヒモを締めることを知らない。

財政改革とはお題目ばかりで、国家財政はゆるみっ放し。
これを建て直したかったら、かつての坪内寿夫さん、
大山梅雄さん、早川種三さんのような名再建屋さんにでも、
大蔵大臣、通産大臣、運輸大臣になってもらって、
総理大臣以下みな禁治産にすれば、
三年間くらいで立ち直るんじゃないですか。

はいってくるものが足りないなら、
出口をできるだり小さくして出るのを防ぐことが、
黒字にするための定石なんです。





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2013年5月7日(火)

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