死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第46回
新製品が出ても、少なくとも一年は待つ

メーカーというのは、
自分たちの使ったものを私たちに買わすために、
あの手この手を考えてきます。

すでにある機種のニュータイプを開発し、
大宣伝して販売するというのもそれです。
もちろん、品質が大幅にアップし、
値段も下がったというのなら
たいへんけっこうなのですが、
中には、品質も変わらないで、
外側だけ目新しくしたものも珍しくありません。

しかし、新製品マニアとでもいうのでしょうか、
とにかくそれが新しいというだけで、
つい買ってしまう人がいる。
こういう人は、言ってみれば、
メーカーの犠牲者みたいなものです。

たとえば、テレビやビデオが
できたときのことを考えるとそれがわかるでしょう。

すぐに買わなくても、
もっと性能のよい、
しかも値段の安いものがどんどんできてきています。
そして、その傾向は、
むかしに比べるとさらにスピードが早くなっているのです。

むかしは、ひとつのモノができあがると、
それに固執して、なかなか改良が行なわれませんでした。
たとえば、イギリスの万年筆にオノトというのがありますが、
これもなかなか改良されずに、
原形をいつまでもたいせつにしています。

形は年代を感じさせる雰囲気を持っており、
イギリスの人に
「なぜいつまでも古い形のままにしているのですか」
とたずねると、「この万年筆にどこか悪い点でもありますか」と、
逆に聞き返されたことがあります。

このように、伝統を重んじる商品については、
急いで買って「しまったなあ」と
あとで悔やむ心配はあまりありません。

ところが、工業製品がつぎつぎとつくられるようになってからは、
製品の機能スタイルがクルクル変わるようになった。
ブームに乗せられて新製品を買ったのはいいのだけれど、
半年後には、もっと安い値段で、
もっと品質のいいモノが発売され、
「しまった!」と思うことが多くなってきました。

あるとき、ビクターの社長だった百瀬結さんに、
「こんなにつぎつぎと新しい商品ができ、
値段も安くなってくるんじゃ、すぐにとびついたりしないで、
あとになってから買ったほうがトクですね」
と言ったことがあります。

そうしたら百瀬さんは、
「そんなことおっしゃるけど、
もっとあとになって結婚したら
もっといいお嫁さんをもらえることがわかっていても、
みんな早く結婚するじゃないですか」
と言い返されたことがあります。

たしかに、こういった人間のせっかちなところが
経済を発展させていく原動力になっている面もありますが、
お金を貯めるということになれば、
やはり、早く買わないほうがいい。
周りの人の様子や競争メーカーの出方も、
すこし考慮に入れたほうが得策なのです。





←前回記事へ

2013年5月17日(金)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ