至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第74回
かけがえのない食材

今やお取り寄せブームも手伝ってか、
全国、いや全世界津々浦々の逸品探しに
みんな夢中になっています。

そういう私も
雑誌でおいしそうなものを見つけると
思わずフリーダイヤルを回していたりするのですが
でも、やはり
自分が旅先などで出合った食材に
かなうものはありません。
巡り合った土地と人、楽しかった時間、忘れられない風景
それらとセットになって
心のなかの
特別室に、永久欠番のごとく存在し続けるのです。

私にとって、そのひとつは
イタリア・ピエモンテ州のアルバレット・デッラ・トッレにある
リストランテ『ダ・チェーザレ』(第4回5回参照)
のシェフ、チェーザレさんが作っている
自家製のアチェート(酢)。
シェフのお店も、お料理も
すでに特別室行きになっていますが
思い入れが多分に込められている
このアチェートもまた、何しろ気に入っています。

チェーザレさんのアチェートは
地元のワイン
バローロ、バルベーラ、ドルチェット、
アルネイス・グリニョリーノ、モスカートから作られる
5種のワインヴィネガー。

少量しか作らないけれど、だから貴重だとか
最高峰のワインで作られるから高級だ
という話ではありません。
むしろ、香りも味もストレートで
私には素朴に感じられるほど。

でも、それがあの土地の
チェーザレさんの料理のイメージと重なります。
もちろん、私に彼の真似はできないけれど
自分なりに、
ドレッシングやソースにも使ったり
煮込み料理に入れたりしています。

私は、現地の酒屋で
アチェート・ディ・バローロ(赤)を買って帰りましたが
帰国後、日本に輸入されていると知りました。
限られてはいるものの
輸入食品に力を入れているスーパーや
ネットでも探すことができます。

しかし
「これおいしいから、ぜひ」
とお勧めする気はありません。
私がこのアチェートを使うときの
ある種の感慨というか、幸せな気持ちは
あの場所に行って
あの料理を食べた者にしか
残念ながら、共有できない気がします。

それよりも、伝えたいのは
「おいしい」を超えたものがあるということ。
極上、逸品、特選、希少、限定、幻……
そういった言葉では語れないものが
自分だけの特別室で
永久欠番となって増えていく、この密かな楽しみです。
あなたにもあるんじゃないですか?


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2004年4月1日(木)

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