服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第95回
着物の基本は着流しです

「着流し」という言葉を知っていますか。
これは本来、袴を着けない着物
(長着「ながぎ」)だけの着こなしのことです。
洋服なら「ノー・ネクタイ」というのに
似ているかも知れません。
要するに着物のカジュアル・スタイルです。

これはあくまでも個人的な好みなのでしょうが、
私は着流しのほうが好きなのです。
いい換えれば「アンサンブル」を好みません。
着物と同じ生地の羽織を同時に組合わせることを
俗に「アンサンブル」と言います。
というよりも「着物」といえば
すぐに「羽織」を思い浮べる人も多いのではないでしょうか。

着物を作る時には私もまた
着物と羽織を対(つい)にすることもあります。
でもそれを一緒に着ることはありません。
あえて別々の着物と羽織とを組合わせるのです。

よく若者たちが紺色のウールの着物を
「アンサンブル」で着ているのを見ると、
がっかりしてしまいます。
羽織を最初からセットにして考えているところが
残念でなりません。
ぜひ一度、羽織を頭の中から追い出してみて下さい。
もし寒いのなら上にコートを羽織るべきです。

あるいは着物でドレス・アップしたいのなら、
袴をおすすめします。
袴は格調もあり温かく、スタイルも断然良くなります。
また袴をつけるのはそれほど難しいことではありません。

でも私は羽織そのものを否定しているわけではないのです。
むしろ逆に、羽織は本来この上なく粋な存在であって、
着物と対(揃えて)着るものではなかった、
と言いたいのです。
羽織裏に凝る、などというのがその一例でしょう。

ですからもし羽織を重ねる時には、
注意深く着物とのコーディネーションを考えましょう。
たとえば納戸色(「なんどいろ」わずかにグレーがかかった青)
の着物に、うぐいす色の羽織を重ねるのは、
とてもおしゃれな感覚になるでしょう。
でも、その前に着流をマスターしましょうね。


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2002年12月27日(金)

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