服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第141回
スェーターの話を致しましょう

スェーターをなぜ“スェーター”sweater
と言うのか知っていますか。
正しくは“スウェッター”で、
「汗をかかせるもの」の意味だったのです。

実は“スェーター”はアメリカではじまった言い方で、
やがてそれが世界中に広まったものなのです。
1890年頃からアメリカの大学生が、
運動の前後に身体を冷やさないためにこれを着た。
ここから“スェーター”と呼ばれるようになりました。
つまり今の「トレーナー」に近い存在だったのでしょう。

このアメリカの“スェーター”の源は
イギリスの“ジャージー”jerseyでした。
労働者の着る労働着だったのです。
もっと古くは寒い地方の漁師の労働着から来ています。
それは羊毛の原毛を手編みにした厚手のニットで、
寒風を通さず、水しぶきをもはじいたからです。
ウールの原毛には天然の油脂が含まれていて、
これが防水の役をも果したのです。

イギリス海峡に浮ぶジャージー島やガーンジー島で
羊毛を編むようになったのは、
15世紀のことと言われていますから、古い。
そこで最初はニットのことを“ジャージー”とか
“ガーンジー”guernseyの名前で呼んでいたのですが、
いつの間にかガーンジーのほうは忘れ去られてしまいました。
つまり“ジャージー”という名称だけが
今に残されているのです。

ところでイギリス人がすぐに
“スェーター”という言葉になじんだわけではありません。
なぜならイギリスにはイギリスの呼び方があったからです。
“ジャンパー”jumper。
ジャージーはどちらかといえば総称で、
頭からかぶって着るような形に限って
“ジャンパー”と呼んでいました。
私自身、今から30年後ほど前、ロンドンの店員から、
「このジャンパーですね」と念を押されて、
驚いたことがあります。
「スェーター」が“ジャンパー”であるなどと
思っていなかったからです。

明日からは少しスェーターのお話をしましょう。


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2003年2月11日(火)

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