服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第335回
今日の昼食はにぎりめし

「おにぎり」と「おむすび」の違いを知っていますか。
私は知りません。
どなたか詳しい方がいらしたら教えて下さい。

でももともとは「握り飯」と言ったのでしょうね。
「にぎりめし」ではあんまり雑だから、
少しでも丁寧にということから、
優しく「おにぎり」、「おむすび」と言い換えたのでしょう。
つまり、そもそもは女性語だったものが、
一般化したのではないでしょうか。

にぎりめしそのものは昔からあって、
屯食(どんじき)と言ったのだそうです。
一方、これを屯食(とんじき)と読むと別の意味になる。
平安の頃、貴族階級の宴につかえた下々の者に出した、
台付きの食膳の名前だとか。
「とんじき」と「どんじき」、まったく日本語は難しい。

ところが難しくないのが、にぎりめし。
炊いた飯を手に持って、好きな具を入れて、
文字通り握るだけで
たちまち便利な携行食ができるのですから。
にぎりめしの具としては、
梅干、シャケ、ノリ、オカカ・・・。
なるべく単純素材なものが好きです。

朝から図書館へ行くような日には、
たいていにぎりめし。
具の異なったにぎりめしふたつ、
これに好きなお茶があればもう言うことなし。
もちろん満腹です。

今、訳あって明治期のことを調べています。
明治のはじめ、西郷隆盛は江戸城での会議に
弁当持参であったと言います。
左の腰に朱鞘の大小、
右の腰には小さな風呂敷包み。
なかには竹の皮に包んだ焼飯が入っていた。
私は勝手にこれは炊きおにぎりだと考えているのですが。

西郷隆盛は新政府の重臣だったわけですが、
「人の上に立つ人間こそ質素倹約をむねとすべし」
という考えで、自らそれを実行したのです。

今は便利な時代で、
どこへ行っても簡単に食事ができます。
携行食なんていう言葉自体が、古い。
でも、だからこそ、自分が納得して、
自分が作ったものを、自分だけが食べる。
これもまたとても贅沢なことではないでしょうか。
私はいつもにぎりめしから西郷どんを想うのです。


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2003年9月2日(火)

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