服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第343回
グッド・アイディアへの近道

馬上机上廁上という言葉を耳にしたことがありますか。
馬の上、枕の上、厠(かわや)の上。
つまり馬に乗っている時、寝ている時、
トイレに入っている時ということです。
むかしの日本人はこの3つの時が
いちばん良いアイディアが浮ぶ、と考えたわけです。
馬上は今の時代に言い換えるなら、
マイカーの運転中ということでしょうか。

名案が浮かぶか浮かばないか。
これは人それぞれ、個人差があるはずです。
さて、私の場合の名案。
名案というよりも文案ですね。
さて、何について書こうかな、と。
雑文が商売ですから、
文案が浮ばなくては話になりません。
そこで文案のための私の方法。

どうも私の場合は匂いに刺激されて、
脳細胞が動きはじめるようです。
たとえば机の前に座って、
1行も、1語も出てこない時、お香をたいてみる。
すると、やがてスラスラと。
まあ、それほどでもありませんが、
とにかく文案が浮かんでくれるのです。
これはひとつには、立ってお香のある所まで行き、
マッチを探し、火つけ、しかるべき所に置く。
この無意識の動作もまた良い効果があるように思われます。

好きな匂いもさることながら、
そこに至るまでの無意識の動作が必要なのです。
だからコーヒーの豆を挽き、湯をわかし、
ポトリポトリとおとしてゆく。
この間のなんにも考えない単純な動きが
良いのではないでしょうか。

もしもお香、コーヒーでも名案が浮かばない場合には、
奥の手は香水。自分の好きな香水。
もちろんオーデコロンでもよろしい。
まずハサミを探して、紙を適当に細長く切る。
この細長い紙の端に少しばかり
香水(オーデーコロン)をつける。
これを鼻の先にひらひらとやるわけです。
私の場合には効果てきめんです。
必ず名案が生まれる。
たぶん紙を細長く切る、無為の作業が良いのでしょう。

でも、もっとも大切なことは、
「絶対、名案が生まれる」とつよく信じることでしょう。
名案であろうと何であろうと、
まず自分が信じないようでは、
とても成就には遠いのです。


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2003年9月10日(水)

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