服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第348回
ブランドとゆっくり話がしてみたい

万年筆のモンブランを使ったことがありますか。
私は商売道具のひとつでもありますから、
もちろん使ったことがあります。
モンブランはまず第一に、丈夫です。
こう言うと笑われるかも知れませんが、
万年筆において丈夫であることは
とても大切なことなのです。
よくご存じのように、
万年筆は買ってすぐに
100%の威力を発揮してくれるわけではありません。
むしろ毎日毎日、書き続けているうちに、
段々と手になじんでくれるのです。
もちろん個人差はあるでしょうが、
2、3年はかかるのではないでしょうか。
この手になじむ間に万年筆が壊れてしまったのでは、
お話になりません。

これは分りやすい実例ですが、
ブランド=銘品をいかに丈夫であるか、
という面から眺めてみるのもひとつの方法でしょう。
同じように5万円で買ったとして、
Aは5年で壊れ、Bは50年使えた、
ということになれば、
どちらが銘品であるかは明白です。
けれども実際には、買う前にそれが5年の生命であるか、
50年の生命であるか、見極めがつきにくいことがあります。
そこでブランドの知名度が
参考のひとつになるわけです。

けれどもあまりに知名度だけに
頼りすぎてしまうのは問題だと、私は思います。
少し理想論であるかも知れませんが、
本当はひとりひとりが目効き、
物を識別する眼を持つことです。

たとえば1本の万年筆を買うとして、
その5年後の姿、10年後の様子、
20年後のあり様を想像してみてはどうでしょうか。
言葉を換えるなら、
人間と銘品とが無言の対話をしているわけで、
これはこれでひとつの楽しみであり、
快感だと思います。

このように考えてくれば、
ブランドを単に知名度だけで判断するのは
危険なことなのです。
ある程度、銘品と対話ができ、
銘品の良さが理解できる大人にこそ
ブランドがふさわしいのではないでしょうか。
そして若者に対しては丁寧に
何が真の銘品であるかを、
教えてあげるようになりたいものです。


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2003年9月15日(月)

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