服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第349回
今日より明日を心地良く生きるために

ブランド志向ということについて
賛成ですか、反対ですか。
私自身は賛成です。
というのはブランド志向によって
得られる利益もあるからです。

たとえばパリにアルニスARNYSという銘店があります。
世界中の紳士服のなかで、
総合点としては最高でないかと思います。
趣味の良さと、品質の高さと、希少性(威光性)において、
アルニスの右に出る店は少ないでしょう。
これも一例ですが
カシミアのスカーフが仮に5万円だとします。
ほとんど同じようなスカーフが
他の店で2万5千円で並んでいたとしたら、
私は迷わずアルニスのほうを選びます。
おそらくそれは最上級のカシミアで、
もっとも肌ざわりが良く、
温かいものであるからです。
安心して選んで、間違いがない。
これはブランド志向の大きなメリットでしょう。

一般にメーカーが商品を作ろうとする時、
販売価格を設定します。
2万5千円の定価で売りたい、と。
するとここから原価がはじき出され、
素材の値段もほぼ自動的に決まります。
これで最上級のカシミアを求めるのは難しいでしょう。
ことにカシミアはピンからキリまでのランクがあります。
これは素人にはまったく分りません。
そうなると上質のカシミアを入手しようとしたなら、
自分が信じるブランドに頼ったほうが
はるかに近道だということになります。

つまり値段の違いを、
安心感と近道代だと思えば
納得できるのではないでしょうか。
しかもその上、ほぼ毎日のように、
快いスカーフを味わえるわけですから、
私はむしろ安い買物ではないかと思うのです。

けれども世の中は広く、人はさまざまで、
ウールのスカーフで充分、という人もいます。
さらにはスカーフの必要はない、
という人もいるでしょう。
そしてまた、スカーフはカシミアでなければ、
と考える人もいます。
結局のところ、ブランドが必要であるか否かは、
その人にとっての人生観とも
関係してくる問題でもあるのです。


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2003年9月16日(火)

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