服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第413回
ハードボイルド・コーヒー

トルコ・コーヒーを飲んだことがありますか。
ターキッシュ・コーヒー。
イブリックという道具を使うところから、
イブリック・コーヒーと呼ばれることもあります。
その名前の通り、ざっと700年も前から
トルコで飲まれていたやり方なのです。

イブリックというのは
長い把手のついた銅製の容器。
この中に水と、コーヒーの粉と、
そして好みの量の砂糖を加えて火にかけるのです。
沸とうしはじめたなら、火から離す。
少し落着いたところでまた火にかける。
これを2、3回繰返して、カップに注ぐ。
そしてその上澄みを静かに飲むのです。
これは個人用で、大勢で飲む時には
もっと大きなジャズベという器具を使う。
いずれにしても古き良き時代の、
原始的なコーヒーの飲み方と言って良いでしょう。

どうしてトルコ・コーヒーの話になったのか。
それはフィリップ・マーロウと関係があります。
マーロウはレイモンド・チャンドラー描くところの、
私立探偵であることは言うまでもありません。
そしてマーロウはコーヒーを淹れるのが上手い男だと
設定されているのです。
よく読んでみると、
どうもサイフォン式で淹れているようです。
そしてまた、トルコ風の淹れ方をしている場面もあります。

ただし、砂糖は入れず、粉と水を直火にかけ、
軽くこして飲んでいるのではないか。
早速、真似をしてみました。
マーロウ・コーヒー。
当り前の話ですが、
豆の性質がそのまま出てしまう。
強くて、粗い味わいのコーヒー。
素朴で、男らしいコーヒー。
まさにハードボイルド派のコーヒーでしょう。

トルコ・コーヒーか、マーロウ・コーヒーか。
それはさておくとして、
コーヒーを自分で、上手に淹れる男は素敵だと思います。
来客があった時、あるいは愛する人に飲ませようとする時、
湯を沸かし、豆を挽き、コーヒーを淹れる。
こんな一連の動作が自然に、
スマートにできる男に私は憧れます。
ハードボイルドはなにも強がるだけではないのです。


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