服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第431回
おしゃれな手の物語

どうしてセイラー・パンツに
ポケットが付いていないか、知っていますか。
手をポケットに入れさせないためです。
裾広がりの、ウエストにボタンが
「コ」の字型に並んだデザインのセイラー・パンツには、
両脇のポケットが付いていない。
常に礼儀正しく、美しい姿勢を保つために。
厳密にいえば、ウエストに沿って
小さなポケットが用意されています。
ただしこれは懐中時計を入れるためのポケットで、
とても手を入れることはできません。

余談ですが、あの独特の太いシルエットは、
海に落ちた時、すぐにパンツが脱げるように考えられたものです。
余談の余談。
「コ」の字型のボタンの配列にも意味があります。
やはり海に落ちた時、
一方の端を右手で強く引ぱると、
瞬時に脱ぐことができるのです。

そういえばむかしの海軍のズボンにも
脇ポケットは付いていませんでしたね。
どうも手をパンツのポケットに入れることは
歓迎されないようです。
けれども無くて七癖、
つい自分でも意識しないうちに、
手がポケットに入っていたりするものです。

ところで手をポケットに入れることについても
良し悪しがあるのですから、
男のおしゃれ道も奥が深いのです。
たとえば右手を横から、
上着の裾をたくし上げるようにして、
パンツのポケットに入れる。
これは悪い例なのです。
そうではなくて、手を前から後に動かして、
上着の裾をはね上げるようにして、
ポケットに入れる。
これがおしゃれなやり方だとされるのです。

実はこれ、モーニング・コートと関係があります。
モーニングの場合、裾が長いので
たくし上げることができませんね。
それで必ず前から手を回して
ポケットに手を入れたのです。
つまり、「以前はよくモーニング・コートを着たもんだよ」
という言葉ではないメッセージがこめられているわけです。

本当は手をポケットに入れないほうが良いのでしょう。
でも、どうしても入れるなら、
上着の裾を外に折り返すようにしながら、入れてみる。
まあ、そのうちに面倒になって
入れないようになるかも知れませんよね。


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