服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第433回
幸福のスェーター

フィッシャーマンズ・スェーターというのを
聞いたことがありますか。
スェーターはもともと
北海の漁師の作業着で、
つまりはその出発点となったものを
“フィッシャーマンズ・スェーター”と呼ぶわけです。
では、具体的にはどこの漁師を指すのか。

アラン諸島。
アイルランドはゴールウェイ湾近くの、
アラン諸島がフィッシャーマンズ・スェーターの
生まれ故郷だと考えられています。
フィッシャーマンズ・スェーターとは
アラン・スェーターのことである、
と言ってもそれほど大きな間違いではありません。
アラン諸島はイニシュモア、イニシーア、
イニシュマーンの3つの島から成り、
今も昔も漁業が盛んな場所です。

では、アラン諸島でのスェーターは
いつ頃から着られていたのか。
さあ、それは分りません。
もう時代も分らないほどに古い、
と言うべきかも知れません。
ただし英国をはじめヨーロッパ諸国で、
一般化したのは比較的最近のことです。

アラン・スェーターのなによりの特徴は、
未脱脂、未染色のウール糸が使われることです。
ウールに含まれる自然の、動物の脂をとり除いていない。
だからこそ適度な防水性を持っているのです。
未脱脂ということは染色も難しいので、
たいていはオフ・ホワイトの自然の色のまま編まれるわけです。
もっともアラン諸島では
スェーターとは言わず、
なぜか“シャツ”と呼ぶのですが。

さて、アラン・スェーターのもうひとつの特徴は
さまざまな編み目模様。
たとえば他のスェーターには見られない、
丸い球状の模様があります。
あれは“ボブル”bobble と呼ばれる模様なのですが、
もともとは宝石や財宝のシンボルであったと言われています。
またよく見られるケーブル編みの一種には、
“ラダー・オブ・ライフ”の名がつけられているのです。
おそらく長寿の祈りをこめたものでしょう。

アラン・スェーターはただあたたかいだけでなく、
幸福を約束してくれるスェーターでもあるのです。


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