服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第434回
ギャバジンのふるさと

ギャバジンという生地を知っていますか。
しっかりと目の詰んだ綾織地で、
コットン・ギャバジンもあれば、
ウール・ギャバジンもあります。
コットン・ギャバジンは
レイン・コートには欠かせない生地となっていることは、
ご存知の通り。
トレンチ・コートももちろん
コットン・ギャバジンで仕立てられます。

ところでなぜトレンチ・コートにはギャバジンなのか。
綿糸を強く拠(よ)ります。
これを強撚糸といいます。
これを強撚糸で織ると、自然の防水地となる。
なぜなら糸が水分を含むことで、
一定以上の水を寄せつけないようになるからです。
もっとも現在では
さらに糸の表面に特殊な加工を施します。
トレンチ・コートは洗濯をしないで着るのが正統だ、
と言わせるのは
ひとつにはこの防水加工が消える可能性があるからです。

さて、この防水地の原理を完成したのが、
トーマス・バーバリー(1835〜1926年)という人物。
今のバーバリー社の創業者であります。
この防水地に“ギャバディン”
Gabardineという名前をつけて、
1888年には特許を得るのです。
この名前は中世のマントである
“ギャバディン”gaberdineに
ヒントを得ていたからです。

発音がまったく同じなので、
少しややこしいのですが、
もともとGabardineは固有名詞で、
特許を得た生地名。
一方の、gaberdineは
古い時代のマントの呼び名。
ところが生地の“ギャバディン”があまりにも有名になり、
一般的に使われるようになった結果、
ついに普通名詞のようになってしまったのです。
ふつうの辞書はもちろん、服飾辞典などでも
gabardineと表記されています。
これに対してgaberdineのほうは
すっかり古語となってしまっているようです。
たいていの辞書には記載がありません。

トレンチ・コートを防寒コートの代わりに着てみる。
襟を立て、ベルトをしっかりと締める。
この時、むかしむかしの、フードの付いた、
ゆったりとして長いマント“ギャバディン”を
思い浮べてみるもの一興かも知れませんね。


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