服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第448回
レトロなレトロ名刺です

自分の名刺を自分で作ったことがありますか。
単にオリジナルの名刺という意味ではなく、
手作りの名刺ということなのですが。
いや、これでもまだ正確ではありません。
手書きの名刺。
愚かな私はとうとうこれをやってしまいました。

ちょっとした手違いから、
いつもの印刷した名刺をきらしてしまったのです。
つまり窮余の一策で、
1枚1枚、自分の手で書くことになってしまったのです。
名刺用の紙を買い求めて、
下手な筆で名前と住所、電話番号を書いたわけです。

今の世は困った時のコンピューター頼みの時代で、
名刺であろうが葉書であろうが、
ボタン操作ひとつであっという間に
出来上がってしまいます。
でも、時代遅れの私のこと、
どうもこれが苦手なのです。

自分の失敗を棚にあげるわけではありませんが、
もともと正式な名刺は
自分で書込むことになっていました。
名刺の上には氏名のみを印刷する。
で、時と場合によって
必要な住所などを自分の手で記入して
相手に渡したのです。
少なくとも第二次大戦の、
ヨーロッパの上流階級では
これがふつうだったのです。
―まあ、だからといって、
自分の名刺をなくしてしまうのは
良いことではありません。

ただしこの広い世の中に、
手書きの名刺を愛用している人が
いないわけではありません。
昔、作家の神吉拓郎さん(故人)に
はじめてお会いした時、
手書きの名刺を頂いたものです。
それも名刺と万年筆を取出して、
その場で書いて、下さった。
考えてみればこれほど間違いのない、
貴重な名刺もないのかも知れません。

まず名刺の中央に、筆で、自分の名前を書く。
充分に乾いたところで、裏返す。
するとかすかに表に書いた名前が透けて見える。
これを手がかかりにして、
住所と名前をそれぞれ1行づつ書く。
時間は少しかかりましたが、
とても良い気分転換になりました。
まあ、それだけ私がヒマということなのでしょう。
でも、下手だけれども、
私の心のこもった名刺だと思います。


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