服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第499回
ステッキ夢物語

男にとって最高の小道具は何だと思いますか。
これはもう人さまざまの意見があるでしょう。
でも、私はステッキではないかと、考えています。
銀の握りの付いた、
黒檀かなにかのステッキを携えて
さっそうと歩いてみたい。
これは永年の夢で、ということは
一度も実現したことがないのです。
夢想のおしゃれ、そうかも知れません。

ステッキは要するに、
杖ということになります。
けれども「杖」と言ってしまうと、
歩くための手助けの、
老人用のそれを思い浮べてしまう。
もちろん私だって、
やがて「杖」が必要になるでしょうが、
もう少し待って頂きたい。
おしゃれ専用のステッキ。
「ステッキ」は英語の“スティック”stickで、
「棒」の意味です。
スティックといえば、
どうもスポーツ用品のイメージがあります。
たとえばアイス・ホッケーで使うスティックであるとか。

では、おしゃれ専用のステッキは
何と呼べばいいのか。
“ケーン”caneというのが、
おしゃれ専用の杖に
もっとも近い言葉ではないでしょうか。
ところが“ケーン”はまだ、
日本語として定着していない。
これもまた、私がステッキを携えることへの
抵抗感の一因であるかも知れませんね。
でも、きっといつか、
“ケーン”が日本語になる日も来るでしょう。

さて、もう少しケーンの夢物語をつづけましょう。
凝った材質、凝った握りのステッキならぬ
ケーンを持ったとしましょう。
けれどもこの場合、ケーンのデザインや価値よりも、
持ち方、使い方のほうが、はるかに重要なのです。
それを、どう扱うのか。
扱い方ひとつで、キザにもヤボにも、
そして素敵にもなるわけです。

ケーンはやや極端な例かも知れません。
でも、男が、その小道具とつき合うということのコツは
ここにあります。
あたかも自分の身体の、自分の腕の、
自分の手の一部であるように、
愛情をこめることにかかっているのです。


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