服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第547回
良寛のスタイル

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
J.K 様から
第543回 好きな服、好きなスタイルについて
メールをいただきましたので、
そのご返答を掲載させていただきます。


■ J.K 様にいただいたメール

件名:スタイル

前略
いつも楽しく拝見しております。

スタイル。
生き様、とでも言えばいいのでしょうか。

あのイチローでさえ、オリックスが日本一になったころ
つまり、他を寄せ付けずに首位打者であり続けたころに
「表面的な数字ではごまかせたけど、スタイルが
 カタチができていない、感覚がつかめない」
と苦悩の日々だった、というくらいですから
私のような凡人が確立するには
長い年月かかっても仕方ないと開き直っています。

これが自分のスタイルだ、と
胸を張っていえるようになった自分を思い描きながら
自分らしさというものを模索する毎日です。

これからのますますのご活躍、ご祈念申し上げますとともに
寒暖の激しい季節、くれぐれもお身体、ご自愛下さい。
草々

追伸
ラテン語の"stilus"
コンピュータの画面にタッチするペン状のものを
スタイラス、というのですが
語源はこれだったのですね。まさにEUREKA!です。
ありがとうございます。


■出石さんからのA(答え)

J.K様、
お便りありがとうございます。
また、いつもお目通し下さっていることにつきましても、
御礼申上げます。

“スタイラス”という言葉、
まったく知りませんでした。
またひとつ勉強になりました。
重ねて御礼を申上げます。
それはさておき、
「スタイル」とは難しいものです。
「スタイル」とは何か。
「スタイル」はどう考えれば良いのか。

たとえば良寛のことを考えてみましょう。
いうまでもなく江戸後期の禅僧の、良寛。
良寛のことは実はあまり詳しい事実は分っていません。
ただ、若くして父が没し、
これがきっかけで出家したものと考えられています。
生まれは今の新潟ですが、
岡山の円通寺に行く。
ここで10数年禅の修業をしたと伝えられています。

良寛の名がよく知られていますが、
もうひとつ「大愚」(たいぐ)の名もありました。
「大いに愚かであれ」という自戒の意味でしょうか。
利口ぶるな、という意味でしょうか。
まあ、それはともかく、
良寛は多くの書をのこしています。
有名なところでは、いろは文学があります。
また文政4年(1821年)に書いた
「月の兎帖」も伝えられています。

もし機会があったら、
良寛の字をじっくり見て下さい。
書の専門家に言わせると、
良寛の字はどこから入って、
どこから抜けて行ったか、分らないのだそうです。
それほどに自然で、それほどに自由なのです。
つまり、上手に書いてやろうとか、
観る人をうならせてやろうとか、
まったく考えていなかったのです。

頭の中は「空」であり、「無」の状態。
それで自分の手が勝手に動いてしまったのが、良寛の字。
何も考えないで動いた結果が、美しい。
これがスタイルの正体ではないでしょうか。

もちろんそこに達するまでには厳しく、
激しい練習があったとは思うのですが。
こう考えると「大愚」の意味に
一歩近づけたようにも思うではありませんか。


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