服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第556回
襟穴のミステリー

上着の襟穴を観察したことがありますか。
シングル前の上着であろうと
ダブル前であろうと、
襟先にはたいてい小さな穴がありますね。
ふつう“ボタン・ホール”(襟穴)と言います。
むかし上着が詰襟であった時代の、
第1ボタンの名残りであるからです。
老舗のテイラーのなかには、
反対側の襟裏に、
このボタン・ホールと対応させた、
小さなボタンを付けるところもあります。

さて、このボタン・ホールもよく見ると
さまざまな種類があることに気づくでしょう。
ひとつの装飾として、
実際には穴が開いていないものもあります。
ボタン・ホールとして使うわけではないから、
それでも良いのでしょう。
あるいは先端部分に小さな点としての穴が
開いていることもあります。
会社のバッジを付けるには便利ですよ、
というわけです。
さらには実際にボタン・ホールを作っているのもあります。
この部分が手かがりになっているのは、
高級注文服だと推理して良いでしょう。
つまり襟穴ひとつでも、
その服の性格を知る手がかりになることがあります。

襟穴の裏に秘密が隠されていることもあります。
裏返してみると、襟穴の下に、
糸で小さなベアを作ったものがあります。
あるいは三角形に似た
小さなポケットが付いていることも。
これらはむかし、
襟穴に花を飾った時代の習慣なのです。
襟穴に花を挿して、
その茎をしっかり安定させるための工夫だったのです。
襟穴を“フラワー・ホール”とも呼ぶのは、
そのためなのです。

飾り花によく使われたのは、カーネーション。
白はよりドレッシーな色とされたものです。
カーネーションの場合、
緑色の萼(がく)の部分まで襟穴に差し込む。
そして少し萼(がく)のあたりをほぐす。
と、花びらはより大きく開き、襟にフィットする。
また萼(がく)がストッパーの役を果して、
そう簡単には抜けなくなるのです。
そんなふうにしてむかしの男は
おしゃれを楽しんだのです。

友が我より偉く見える時、
花を買って襟に挿してみましょうか。


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