服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第605回
辞書と遊ぼう

「ジョンソンの英語辞典」を知っていますか。
サミュエル・ジョンソン(1709〜1784)が
ひとりで編んだ、初の本格的英語辞典。
“オーツ”oats を調べると、
次のように説明されていたことでも有名です。
「ふつうイングランドでは馬に与えられ、
 スコットランドでは人間を養う」。
ただしこれは1755年の初版のみで、
以降の版では残念ながら削除されています。

よく「ジョンソンの英語辞典」にたとえられるのが「言海」。
大槻文彦(1847〜1928)が編んだ、
初の本格的な国語辞典です。
明治22年、3万9千語を収めて刊行。
たちまち人気となって、数多く版を重ねました。
後に「言海」が発展して
「大言海」となったのはご存じの通りです。

今、私の手もとにある「言海」を見ると、
大正12年刊、第488版。
いかに売れたかお分りでしょう。
ところで「言海」を何と読むか。
大槻文彦の「おくがき」には明確に
「ことばのうみ」とあります。
まあ、それはともかく
「ジョンソンの英語辞典」同様、
ユニイクな点では較べるものがありません。
ことに語源が充実していて、
その解釈が面白い。

たとえば「がらんどう」の説明。
「空の意」とあり、
さらに「伽藍堂ノ義力」とあります。
「伽藍」とは仏教の修行をする場所のこと。
「伽藍堂」はその中心にあって神仏を祭ってある堂。
「がらんどう」の語源が、
伽藍堂だと説明してあるのは
「言海」ならではでしょう。
とにかくこれほど読んで、
楽しい辞書は他にはありません。

私は「言泉」や「大辞泉」などの
中型辞典が好きで、
3つ4つの辞書をあれこれ引き較べては楽しんでいます。
暇人にとって最大最良の娯楽です。
今度、ちくま文庫から「言海」が再販されました。
2,200円、安い。
これはもう絶対買うべきでしょう。
文庫ですから、軽い。
旅にも持って行ける。
中型辞書を2、3冊持って
ギックリ腰になることもありませんよ。


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