服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第619回
汗の元栓を閉める話

ネクタイをゆるめたい、
と思ったことありませんか。
いや、いっそ外してしまいたい。
どうしてネクタイをしなければならないのか。
しかし、時と場合によっては、
どうしてもネクタイが必要なこともある。
世の中には複雑な事情もあるのです。

すでにお話をしましたように、
私自身はとても暑さに弱い。
すぐに汗をかいてしまう。
恥かしい限りです。
それでも大切な人とお会いする時には
やはりスーツにネクタイ。
この場合には不思議に汗をかかないのです。
たぶん無意識のうちに
汗の元栓を閉めているからでしょう。

汗の元栓、いったい本当にそんなものがあるのでしょうか。
どうも私には永年の経験から
汗の元栓があるように思えてならないのです。
外出前に着替えをする。
シャワーを使うこともあるでしょう。
少しばかりオーデコロンを用いる。
で、そのあとから下着をつける。
シャツを着て、タイを結ぶ。スーツを着る。
だいたいこのような順序でしょう。
この段取りのなかで、
少しづつ栓を閉めてゆく。
いや心を引締めてゆく。
まさに「丹田に力をこめる」ということなのでしょう。
姿勢が正しくなり、
多少のことでは動じない心の強さが生まれてきます。
これが私の言うところの
「汗の元栓を閉めた」状態なのです。
心が完全に落着いていれば、
暑いから汗をかく、
という単純な働きではなくなってくるのです。
平たく言えば、精神をしっかりコントロールする。
と、実際に汗は少なくなります。

また静かな深呼吸も効果的です。
他人には分らないように、
ゆっくりと時間をかけて鼻から吸い、
その後で今度は口からゆっくりと時間をかけて吐く。
これも暑さを殺すための秘法です。

大切なのは、服を着るには心の準備をすることです。
暑さには絶対負けないぞ、という覚悟であります。
この覚悟をもって汗の元栓を閉める。
いや、暑さに関係なく、
スーツを上手に着るには
この覚悟こそが肝心なのです。


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